シリコン結晶研究のルネサンス
アボガドロ結晶

初めに
シリコン結晶は最も純度が高く結晶欠陥が少ないです。
シリコン結晶の性質を国際単位系の基礎に据えようという研究が実を結んで
2019年にシリコン結晶の真球が「キログラム原器を置き換え」ました。
その経過と内容を以下に示します。
 

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背景と概要

国際単位系は、原器から、科学定数を基礎とするものへと置き換えが進んでいます。長さの単位がメートル原器から、時間の単位が。しかし重さの標準はキログラム原器でした。
しかし、キログラム原器は副器の重さが本器と異なり、また、経時変化があるという問題があります。経時変化の主な原因はプラチナ合金の表面が酸化するためで50μg程度(5x1018)です。
一方シリコンの同位体純化した結晶は、格子定数も密度も理想値に近く、経時変化も少なく、測定精度が向上し、ついに誤差がキログラム原器の変化をしたまわqるようになりました。そして2019年の国際単位毛の改訂で採用されました。

アボガドロ数とプランク定数の決定


格子定数と密度の測定法
格子定数

シリコン格子定数の絶対測定とアボガドロ定数の決定
中山貫・藤井賢一
応用物理 第62巻 第3号(1993), 245-252.
単結晶の格子定数とアボガドロ定数は,密接な関係があることが,古くから知られている.現在,格子定数の絶対測定は,シリコンについてX線干渉計と光波干渉計を組み合わせた装置を用いて行われる-アボガドロ定数の決定には,格子定数のほかに結晶の密度とモル質量が必要である.ここでは筆者らが行っている格子定数と密度の測定の現状と, Seyfiriedらによるアボガドロ定数の最新の決定(1992)について,基礎的データの測定や基礎定数の決定の歴史などにも触れながら紹介する

シリコン結晶のX線を反射する格子面を鏡面とする、X線干渉計、bicrystal
反射面と並行にアナライザを移動すると、面間隔ごとに回折光強度が変動する
繰り返して、移動距離を振動間隔の数で割れば、面間隔を求められる
4.アボガドロ定数
アボガドロ定数は,要素粒子の数と物質量の比として定義され,したがって単位rnol-1をもつ.その大きさは0.012kgの炭素12のなかに存在する原子の数に等しい.ここで炭素12の原子は結合しておらず,静止しており,基底状態にあるものを基準とする.アボガドロ定数の大きさを見積もることは,19世紀の中ごろから始まった31,32).当時,すべての物は原子からできているという原子仮説が科学的根拠をもって唱えられ出し,原子や分子の大きさを見積もろうという努力のなかから,近似値が求められた. 20世紀初めには,ペランによる,水中に懸濁した微粒子の沈降平衡の測定から決定した値6.7×10脇や}ミリカンの油滴の実験による電子の電荷とファラデー定数の測定値から決定した値(6.064±0.006)×10器などが報告された.現代の測定法としては,電量計によるもの,プロトンの磁気回転比から求める方法などがある33).ところで, (1)式の関係でα0,p,Mの決定精度がアボガドロ定数の精度よりよければ, Beardenとは逆に,α0,ρ, Mからこの定数を決定できる.この方法はXRCD法(X-ray crystal densitymethod)と呼ばれ,今のところ他のアボガドロ定数決定法より高精度である.以下XRCD法に関連した密度とモル質量の決定について述べる.4.1密度の測定4.1.1シリコン単結晶の密度の精密測定方法シリコン単結晶は重要な密度標準物質の一つであり34),またXRCD法を用いてアボガドロ定数を決定するには,シリコン単結晶の密度の絶対値が必要なので,いくつかの国の標準機関において,その精密測定に関する研究が進められている.
4.1密度の測定
4.1.1シリコン単結晶の密度の精密測定方法
シリコン単結晶は重要な密度標準物質の一つであり34),またXRCD法を用いてアボガドロ定数を決定するには,シリコン単結晶の密度の絶対値が必要なので,いくつかの国の標準機関において,その精密測定に関する研究が進められている.
シリコン単結晶はきわめて高い密度安定性を有し,その密度は20℃において約2329.1kg/m3であるが,天然のシリコンには28Siが92%,豹Siが5%, 30Siが3%程度含まれているので,これらの存在比の違いなどにより,結晶によっては数ppm密度が異なることがある35).このため, 10-5よりもよい精度でシリコン単結晶の密度を知るためには,個々の結晶試料について,その密度を測定する必要がある. 密度という量は質量と長さの次元から構成されているので,その精密な絶対測定においては,質量はキログラム原器へ,長さは光の波長へと精度よく関係づけられなければならない.結晶の質量については, 0.1ppmあるいはさらによい精度で測定することが可能なので,密度の精度はいかに正確にその体積を求められるかにかかっている.
]4.1.2液中ひょう量による方法
シリコン単結晶の密度は2てで述べた


X-Ray Investigation of Lattice Deformations in Silicon Induced through High-Energy Ion Implantation
U. Bonse,M. Hart,G. H. Schwuttke
physica status solidi b, Volume33, Issue1 1969Pages 361-374

    

密度

密度の精密測定と密度標準の現状
増井良平・竹中正美
応用物理、55-10, 934-942 (1986).
新しい材料や高純度結晶等の評価試験法としで,密度の精密測定が注目されている.そこで,従来比較的狭い分野に限られていた密度の精密測定方法について述べ,さらに,密度の精密標準として用いられる水,水銀,シリコン単結晶について,標準としての現状と問題点を述べる.
3. 高精度の密度標準
3.3 シリコン単結晶の密度
最近では,シリコン単結晶そのものを真球に近い形に精密研磨し,光干渉によって体積を直接測定する方法で,液中ひょう量を介さずに結晶の密度を決定する試みもある.シリコン単結晶は固体であるため,不純物による内部の汚染もなく,非常に高い密度安定性を有する.また単結晶の純度も高く,一様性に優れているので,たとえ一部が欠けても全体の密度はほとんど変化しない.また結晶表面は酸化膜におおわれて化学的に安定しているが,酸化膜の密度も結晶内部の密度に非常に近いので,表面酸化の進行による影響もほとんどない.また液体に比べて熱膨張係数が小さいので,温度の制御や測定が容易である,
このようにシリコン単結晶は,理想的な安定性を有し,密度標準としての問題点は今のところ見当たらない.ただし,同位体組成の測定が簡便に行なえず,また格子欠陥や内部ひずみ等に由来すると思われる密度のばらつきのために,個々の結晶に対して値づけを行なう必要がある.現在,シリコン単結晶の密度測定を行なっているのは,米国の国立標準局(NBS)の外に,イタリアの計量研究所(IMGC),ドイツの物理工学研究所(PTB)である.これらは全てアボガドロ定数の測定を目ざして行なわれているものであるが, NBSでは密度標準として外部に供給する作業を開始する模様である6).シリコン単結晶は固体標準であるため,別の物体と比較してその物体の密度を測定するためには,現在のところ液中ひょう量法によらねばならない.前に述べた全没式の液中ひょう量等,簡便な方法の一属の精密化が望まれるところである.


できるだけ真球に加工する
直径はレーザー干渉計で全方向を測って平均値を求める


1981
Absolute Measurement of the (220) Lattice Plane Spacing in a Silicon Crystal
Peter Becker, Klaus Dorenwendt, Gerhard Ebeling, Rolf Lauer, Wolfgang Lucas, Reinhard Probst, Hans-Joachim Rademacher, Gerhard Reim, Peter Seyfried, and Helmut Siegert
Phys. Rev. Lett. 46, 1540 - Published 8 June 1981
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.46.1540
ABSTRACT

1988
Lattice distortions induced by carbon in silicon
D. Windisch &P. Becker
Philosophical Magazine A, Volume 58, 1988 - Issue 2Pages 435-443 |
Received 14 Sep 1987, Accepted 19 Oct 1987, Published online: 20 Aug 2006
https://doi.org/10.1080/01418618808209936
Measurement of the silicon (220) lattice spacing
G. Basile, A. Bergamin, G. Cavagnero, G. Mana, E. Vittone, and G. Zosi
Phys. Rev. Lett. 72, 3133 - Published 16 May 1994
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.72.3133

2002
Anomalous Isotopic Effect on the Lattice Parameter of Silicon
H.-C. Wille, Yu.V. Shvyd'ko,* E. Gerdau, M. Lerche, M. Lucht, and H. D. Ru¨ter, J. Zegenhagen
Phys. Rev. Lett. 89-28, 285901 (2002).
DOI: 10.1103/PhysRevLett.89.285901

2003
Evaluation of the molar volume of silicon crystals for a determination of the Avogadro constant
K. Fujii, A. Waseda, N. Kuramoto, S. Mizushima, M. Tanaka, S. Valkiers, P. Taylor, R. Kessel, P. De Bievre :
IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement, 52, (2), 646 (2003).
DOI: 10.1109/TIM.2003.810018

The Lattice Parameter of Silicon: A Survey
January 2005Metrologia 31(3):203
DOI: 10.1088/0026-1394/31/3/006
Peter Becker, Giovanni Mana


2009
アボガドロ結晶の成長記録
The Avogadro constant determination via enriched silicon-28
P Becker1, H Friedrich1, K Fujii2, W Giardini3, G Mana4, A Picard5, H-J Pohl6, H Riemann7 and S Valkiers8
Published 21 August 2009 o 2009 IOP Publishing Ltd
Measurement Science and Technology, Volume 20, Number 9





2010
原子質量に基づくキログラム再定義のためのレーザー干渉計開発
倉本 直樹・藤井 賢一
光学39(3) 141 (2010).

2011
Counting the atoms in a 28Si crystal for the new kilogram definition
Andreas, B., Azuma, Y., Bartl, G., Becker, P., Bettin, H., Borys, M., Busch, I., Fuchs, P., Fujii, K., Fujimoto, H., Kessler, E., Krumrey, M., Kuetgens, U., Kuramoto, N., Mana, G., Massa, E., Mizushima, S., Nicolaus, A., Picard, A., Pramann, A., Rienitz, O., Schiel, D., Valkiers, S., Waseda, A., Zakel, S.
Metrologia 48 S1-13 (2011).
DOI: 10.1088/0026-1394/48/2/S01

2011
Infrared spectrometric measurement of impurities in highly enriched 'Si28'
S Zakel1, S Wundrack1, H Niemann1, O Rienitz1 and D Schiel1
Published 22 March 2011 o 2011 BIPM & IOP Publishing Ltd
Metrologia, Volume 48, Number 2
Citation S Zakel et al 2011 Metrologia 48 S14
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0026-1394/48/2/S02
Abstract


[5] ASTM 2000 Standard test method for substitutional atomic
carbon content of silicon by infrared absorption, F 1391-93

2014
キログラムの定義改定に向けた質量標準の開発動向 (解説)
藤井 賢一
物理学会誌、2014 年 69 巻 9 号 p. 604-612

プランク定数にもとづくキログラムの新しい定義
130年ぶりの定義改定とその影響
藤井賢一
日本原子力学会誌,Vol.61,No.10 (2019)



炭素濃度と格子定数の関係

初めに
アボガドロ結晶では、炭素を含み格子定数が小さくなっているので、炭素濃度を測定し、炭素濃度と格子定数の従来知られている関係から、炭素を含まない結晶の格子定数に補正しています。
これには幾つか問題があります。
炭素濃度が赤外吸収法で測定されているが、平均濃度である。
格子定数も平均値である。
炭素は、偏析係数が0.07と小さく、成長中の界面の温度変動などにより、回転周期(1mm程度)で約2倍の周期的変動をしている。このため試料中では不均一である
格子定数もこれにより周期的に変動しており、X線による測定値は分解能(ほぼ照射ビームの面積)範囲での平均値である。
炭素濃度と格子定数の関係も実在しない平均値同士の関係である。
格子定数と炭素濃度の関係の理論的解析が望まれる。原子半径の小さい炭素の置換による歪と応力についてである。
これらについて検討を続けている。2025/11/13

従来の研究