シリコン結晶中の炭素濃度の赤外吸収による測定法の標準手順
現行国際規格の内容と解説

2019年8月21日

1 背景と経過など

1970年代にIBMのMOSDRAM開発計画の情報がライバルのATTからわが国の電電公社(現NTT)に伝わり電子交換機のためにLSI研究プロジェクトが1975年に開始された。一方これは電子計算機の心臓部品となるため、計算機メーカーを通じて通産省(現経産省)に伝わり1976年に傘下の超LSI研究組合が発足した。その後後者の舞台となった通産省傘下の電子協がシリコン技術委員会の中にLSI用シリコン材料の測定法規格作成のための組織を設けた。既存国際規格であるASTM規格がNBSによって制定されていることが採り入れられたと思われる。炭素濃度の赤外吸収法の規格は1970年に制定されている(ASTM F123-70)。最初にシリコン材料の特性として最も重要視されていた酸素濃度の赤外吸収法の測定規格が制定され、次に炭素が採り取り上げられた。1980年代半ばに骨子ができたころに炭素測定のASTM規格が改訂されることになり、電子協規格の内容が採り入れられ1990年に制定された(ASTM F1391)。その後我が国のMOSDRAM事業が下降線をたどり電子協の規格作りが縮小される中で、ASTM規格の和訳による規格作成を行った。その後NBSがASTM規格の業務を止めてSEMIに移管した。SEMI規格は1990年に電子協の成果を入れて改訂されて以降はそのままで、電子協規格の廃止を見据えた2015年頃開始の改訂作業は中断中であったが2019年に再開された。ここではSEMI(旧ASTM)規格の内容の重要部分を解説し、電子協規格の相違部分を説明する。改訂計画については別項で説明する。読者がより高感度で正確な測定ができるようなsuggestionである。

2 規格の構成と内容の要点および測定の現状の解説

シリコン結晶中の炭素は格子点のシリコンを置き換えて入っており、フォノンと同様に局在振動し、その振動数の赤外線(波長16.5ミクロン、波数604.5p-1)を吸収する。その大きさを中赤外赤外分光装置で測定し、濃度への換算係数を乗じる。
シリコン結晶にはフォノンやキャリアーなどの吸収があるため、それらが試料と同じで炭素を含まない試料(参照試料)の吸収も測定し、差し引いて炭素の吸収スペクトルだけを取り出す。ピークの高さを読み取り定められた濃度への換算係数を乗じて濃度を求める。
規格はこれらの手順と準備のやり方を定めている。
1目的Purpose
炭素がシリコン中の欠陥形成とデバイス特性に関わっていることを述べている。
但し、内容は70年代までのことで、炭素濃度が1016/p3以下ではLSI特性に関わる欠陥密度は炭素濃度に依存しないことや、指摘されているパワーデバイスの逆方向特性への影響も当時の高濃度での話で、現在のパワーデバイスとの関係は触れられていない。
2Scope
Useful rangeは室温では5x1015/p3、低温では5/1014/p3とされている。これも制定された1990年時点での話で、現在はルーティンで1x1014/p3の測定が行われている。
分光系の測定範囲が2000-500p-1、炭素ピークの位置が室温で605p-1、低温で607.5p-1、試料の抵抗率がp型で3Ωcm、n型で1Ωcm以上というのは今も変わらない。
3Limitations
測定上の注意や、試料や装置の制約を述べている
3.2参照試料の炭素濃度は室温測定で2x1015/p3以下にすべきとされている。Useful range 5x1015/cm3の2/5に対応するものであり、測定試料に対するこの比率は目安として継承される。
現在は1x1013/p3程度が必要
4Referenced Standards and Documents
用語に関してシリコン関連はSEMI M59
Detection limitについての説明がある。再掲する。

他にもあると思われるが何があるか分からない。
5Terminology
赤外吸収関連の用語の定義はASTME131
シリコン関連はSEMI M59

6 Summary of Test Method
試料、両面研磨で、厚さは室温用は2mm、低温用は2-4mm
参照試料は低濃度で濃度が分かっていること
 実際は濃度不明の試料が用いられていることが多い
装置が適切に用意されていることを確かめてから両試料の透過スペクトルを測定
範囲は700-500p-1
両スペクトルから吸収スペクトルを作成し、それらの差によりcarbon-onlyスペクトルを得る
Carbon peakの両側にベースラインを引きピークとベースラインの吸光度を記録
ピーク吸光度をそれらの差として求める。厚さの較正をして換算係数をかけて炭素濃度を算出。換算係数は室温と低温それぞれの値を用いる
7 Apparatus
分解能は室温で2cm-1以内、低温で1cm-1以内
 幅があるのは良くないので、それぞれ2cm-1、1cm-1としたい。
以下は省略
8 Sampling
測定はsliceの中央で行う
9 Test and Reference Specimens
9.1 試料厚さ 室温では2mm、低温では2.4-3.5mm
9.2 測定および参照試料の加工
厚さ不均一 0.005mm以下
表面仕上げが同じ
試料の大きさは光の回り込みが無いこと
9.3 参照試料の選択
参照試料は置換型炭素濃度とキャリア濃度が最低なFZ結晶を選べばよい。
NOTE 選び方としてたくさんの炭素が低濃度のFZ結晶を研磨し炭素ピーク波数での透過率が最高の物を選べばよい。
これでは測定する機関により参照試料の炭素濃度がばらつき、その濃度を測ることは決められていないため、濃度が分からないことになる。
10 Procedure
10.1 Instrumental Checks
100%透過率の確立
0%透過率の確立
中間領域の線形性の確認 参照試料の1600-2000p-1領域で透過率が53.8+-2%.
光学系の反射の影響を避けるため試料を直角から少し傾ける
10.2 試料の厚さの測定 +-0.005mmまで
10.3 温度の測定、室温では試料室の温度+-2℃、低温では試料ホルダーの温度。
10.4 carbon-only吸収スペクトルの測定
10.4.1 (resolution) 室温では605cm-1において2cm-1 or better、cryogenic temp.(below 80K)では607.5cm-1において1cm-1 or better。
 幅があると結果の統一性に影響があるので、それぞれ2p-1,1 cm-1と規定した方が良いと思われる。
10.4.2 single beam (computer assisted)装置では、最初に光路を空にしてbackground spectrumを測り、次に同じ条件で測定試料と参照試料のスペクトルを測る。試料と参照試料のスペクトルをバックグラウンドで割って吸収に変換する。参照試料スペクトルに測定試料/参照試料の厚さ比をかけたnormalized absorbanceを測定試料スペクトルから引いてcarbon-onlyスペクトルを得る。
Note 4: 計算機能があれば、参照試料スペクトルを、non-peak baselineが最も平らになるような重みで引く。これにより2-phonon bandを消してcarbon-onlyを得ることができる。
 この方法は濃度とbaselineの範囲に関わらず用いられる。
10.5 (baseline) baselineを560-640p-1に直線を引いてdefineする。
10.6.1 ピーク波数Wsを決定し4桁で記録。吸収ピークの吸光度Apを記録。
10.6.2 baseline absorpbance, Abを記録。
10.6.3 Ap, Abを3桁で記録。
10.7 peakの半値幅(FWHM)を決定。室温で6p-1、低温で3p-1以上あったら、息柄は以上でなく装置の再調整が必要。
10.8 FTIRのapotization function, number of zero-fills usedを記録
11 Calculation
11.1 Absorption coefficientαを下式により計算
α = 23.03x(Ap-Ab)/X
Xは測定試料の厚さ(mm)
11.2 Carbon Content計算 室温測定では
Carbon Content = 8.2x1016α atoms/cm3
= 1.64 αppma.
11.2 Carbon Content計算 低温測定では
Carbon Content = 3.7x1016α atoms/cm3
= 0.74 αppma.
NOTE6:このcalibration factorはJEIDAの80年代半ばの活動により決定された。低温の値はKolbesenらが求めた比率を用いて算出した。
実際には装置により実効換算係数が異なる可能性があり、濃度の分かった試料で較正することが望ましい。
12 Report
省略