シリコン結晶研究のルネサンス
評価・解析技術

シリコン結晶の品質の向上は、それに応じた分析評価技術の開発に支えられています。
シリコンデバイスと結晶の研究開発の歴史を4段階に分けていますが、ここでは分析評価技術の歴史を見ていきます。

初めに
シリコン結晶は、色々な電子材料の中で最も純度と完全性の高い結晶です。
そのため、評価技術は一般的に最も高感度で高分解能なものが必要とされ、開発され、用いられていました。
一般に最も高感度なのは電気的測定技術ですが、物によってつかえる方法に限りがあります。。
高分解能と言えば電子顕微鏡が一番に考えられますが、走査トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡は表面限定ですが新しい強力な技術です。

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1 分析評価技術の概要
構造、化学、光学、電気、その他

2 シリコンデバイスと結晶の草創期の分析評価技術(LSIの時代初期まで)
四探針法、拡がり抵抗法SR法
化学エッチング
X線回折、X線トポグラフィー
赤外吸収法(回折格子分散型)
質量分析、放射化分析
詳細省略

電子顕微鏡

3 LSI時代の新たな分析評価技術
電子顕微鏡
SIMS
DLTS
フォトルミネッセンス
赤外吸収法(フーリエ変換型)
光散乱法
K.Moriya and T.Ogawa :Jpn.J.Appl.Phys.22,L207(1983).
5) K. Moriya, A. Yazaki and K. Hirai:Jpn. J. Appl. Phys. 34,5721 (1995).
6) 南郷脩史,小川智哉:日本学術振興会結晶加工と評価145委員会第90回研究会資料,p. 48 (2001).

4 System on chip時代の新たな分析評価技術
電子顕微鏡
M.Itsumi,H.Akiya,T.Ueki,M.Tomita and M.Yamawaki:Jpn. J. Appl. Phys. 35, 812 (1996).
ドライエッチング
中嶋健次,渡辺行彦,吉田友幸,光嶋康一,井上直久:シリコンテクノロジー,No. 28, 16 (2000).

原子間力顕微鏡


5 パワーデバイス時代の新たな分析評価技術


その他
測定法の国際規格



参考文献
半導体評価技術、河東田 隆 (集積回路プロセス技術シリーズ)、産業図書、1989.2東京.
バルクシリコン結晶における分析・評価技術、井上直久、応用物理, 72-5, pp. 550-556 (2003).
Electron Microscopy of Thin Crystals, P.B. HIRSCH, A. HOWIE, R. B. NICHOLSON, D.W. PASHLEY and M.J.WHELAN. Pp.549, 381 figures. Butterworths, 1965.
和訳書、透過型電子顕微鏡,幸田成康監修、諸住正太郎他訳、「透過電子顕微鏡法」、コロナ社(1974年)絶版.



データ科学を用いた結晶シリコンの評価
宇佐美 徳隆,羽山 優介
応用物理 第87巻 第12号(2018) 912-916
近年,材料開発,製造プロセス,科学計測など幅広い分野において,研究開発の方法論は,データ科学の活用による大きな変
革期を迎えている.我々は,多結晶シリコンをモデル材料として,データ収集・機械学習・理論計算を連携させ,多結晶材料の普
遍的な高性能化指針の確立を目指す新たな取り組みを進めている.本稿では,その第一歩として,多結晶シリコンインゴット中の
組織と転位クラスタの3 次元可視化など,データ科学的手法を用いた多結晶シリコンの評価について紹介する.




「半導体加工装置・生産管理技術」 
2.5.3 LSI用Si結晶の評価解析とデバイス応用

目次
2.5.3.1 はじめに
2.5.3.2結晶評価と結晶製造技術へのフィードバック
(1) はじめに
(2) 評価技術・装置の立ち上げと初期の結晶評価‐化学エッチングとX線トポグラフィによる欠陥の評価
(3) 赤外吸収による酸素濃度と析出量の評価
(4) 透過電子顕微鏡による微小欠陥の評価と解析
(5) grown-inの微小析出物と巨大析出物の提起
(6) 空洞欠陥の発見と結晶成長技術の転換
2.5.3.3 デバイスによる電気的評価と結晶製造技術へのフィードバック
(1) はじめに
(2) 非接触電気的評価技術の開発
@ 非接触比抵抗測定法
A 非接触ライフタイム測定法
(3) 欠陥などの電気的評価とMOS LSI用Si結晶仕様
2.5.3.4 まとめ
参考文献
コラム1 赤外吸収による酸素の研究の源流と酸素・炭素濃度測定法の世界標準化
コラム2 通研と超LSI共同研究所の結晶研究の比較
コラム3 Si結晶製造技術と評価技術の今後の展望

2.5.3 LSI用Si結晶の評価解析とデバイス応用
2.5.3.1 はじめに
通研におけるSi結晶の研究は、1975年に開始されたLSI研究プロジェクトの一環として結晶材料研究室において結晶成長、結晶学的評価、電気的特性評価の3つの研究テーマで始められた。この研究を担った結晶材料研究室のメンバは、それまで磁性材料の結晶育成から磁気バブルメモリの作製まで行っていたが、Si結晶は研究を始めるまで見たことも触ったこともない者ばかりであった。この点はほぼ同時期にプロジェクトを開始した超LSI研との大きな違いである。(コラム欄2参照)ただし結晶成長ではSi結晶と同じ引上げ法によりフェライト結晶の成長を行っていたことが基礎となり、電気的特性評価では研究開発していた磁気バブルメモリの評価技術が応用され継承された。一方、結晶学的評価は専門的な研究者と装置がない点でそれらと異なっており共通基盤技術があるのみであった。このため最初の1-2年は知識も装置もゼロからの立ち上げで4年後には他のテーマへの移行が始まり、本格的な研究期間はわずかであった。この項では、結晶製造技術が主題となる本書の性格から、結晶評価と電気的評価については、結晶成長技術の開発をサポートした面、具体的には品質の基準とそれによる評価を中心に述べることにし、品質基準の根拠となる結晶欠陥などの形成機構は含めない。なお、電気的評価は、ウエハのままあるいは簡単なMOS素子などを試作して行われたが、最終のデバイス試作と特性評価は他研究室で行われた。後者についても簡単に紹介する。
Si結晶の場合、結晶評価と電気的評価には、成長結晶の品質評価の他にも役割がある。結晶品質は加工プロセス条件により大きく変化するからである。研究の初期には成長したままの結晶に顕著な欠陥があったため、結晶評価も電気的評価もas-grown結晶を評価し、フィードバックして良い結晶を作ることが主眼だった。しかしある程度as-grownの欠陥が減ると、それよりも加工プロセス後に顕在化する二次欠陥の方が支配的になった。そこでこれらの二次欠陥とas-grownの結晶品質の関係を調べ、「加工プロセスによる二次欠陥のできにくい」結晶を成長することが課題となった。その後さらに、加工プロセスやその前の結晶の熱処理により欠陥を制御することによるデバイス特性の向上も行われるようになり、結晶成長の目標も「加工プロセスにおける二次欠陥の制御」に主眼が置かれるようになって今日に至っている。但し本項ではその内成長技術へフィードバックすることに絞る。(本書とは別に「Siデバイス・プロセス」が予定されており、同書では「結晶成長、熱処理、デバイス製造の三段階のプロセス制御」について述べることにしたい。結晶成長における「酸素濃度の制御や欠陥低減」、結晶評価では「熱処理によるゲッタリング中心である酸素析出の密度と大きさの制御」、電気的評価では「プロセス中のゲッタリング効果の制御」を主に採り上げる予定である。)
LSIプロジェクト期間中の通研の研究を所内の位置づけから振り返ると以上のようになるが、世の中のシリコン結晶成長技術全体の長期の研究・開発の技術史の中で位置付けることも必要と思われる。全体としてはプロジェクト開始前から現在までは「高品質化と大型化」の歴史と言える。高品質化については、大型化と違って、プロジェクト期間中の外部の研究としては、技術的な議論よりも、欧米の研究者による科学的なgrown-in欠陥の種類や形成要因が主題となっていた。そして主なトピックとして66年のスワールの発見、プロジェクト開始時の75年に格子間型転位ループの電子顕微鏡観察があった。そして81年に成長速度が速いと空孔型、遅いと格子間型と見られる欠陥が見出されたことにより、両方のタイプが議論となり始めた。ただしこれらの研究はFZ結晶を対象としており、CZ結晶については分かっていなかった。そしてその直後の82年にVoronkovのV/G(Vは成長速度、Gは結晶中の温度勾配の固液界面直上の値)がこの区別を決定するという理論が現れて、CZ結晶中の欠陥との関連が議論されるようになって現在の技術につながっている。一方技術面では、わが国を中心にLSIプロジェクトの本格化した時期以降に、融点でも濃度が1014cm-3前後と低い真正点欠陥によるgrown-in欠陥よりも、CZ結晶では1018cm-3と高濃度の酸素不純物による二次欠陥の方が多くなったため、酸素濃度の制御が二次欠陥制御のために必須となった。そしてわが国では科学研究よりも現場の技術者の経験と勘により高品質化や酸素濃度制御がなされた。このような流れの中で、通研のプロジェクトは、成長では干川による酸素濃度の制御、評価は筆者らの酸化物析出物の発生成長機構の解明、という科学的な研究を基礎に進め、外部の技術に利用された。一方Grown-in欠陥とV/Gの関係の科学研究は、その後次第に主としてわが国において欠陥低減技術に採り入れられていった。そして1995年空孔型の空洞が通研の逸見らにより発見され、V/Gによる点欠陥制御という科学と技術の融合した研究・開発体制への進化を加速した。大型化は生産につながらない通研では研究費の限界により続けられなかった。

2.5.3.2結晶評価と結晶製造技術へのフィードバック
(1) はじめに
LSIプロジェクト中のSi結晶成長の技術開発は、比較的短期間に品質が向上したため、評価対象もそれにつれて変わった。そのため、評価は最初は世の中で行われている既存の技術を用いることが主体だったが、品質向上とともに新しい評価法が必要となった。また、初期にはas-grown結晶を評価すれば良かったが、後には二次欠陥が主題となり、デバイス製造工程後も高品質を確保するための結晶成長後の熱処理による品質変化の評価や、デバイス製造工程で欠陥を制御するための、熱処理における二次欠陥の挙動の体系的解明が必要となってきた。従ってAs-grown結晶の評価と成長へのフィードバックは主にプロジェクトの初期に行われた。プロジェクトの後半は熱処理工程での結晶品質変化を研究対象とし特に酸化物析出物の発生と成長機構について体系的に研究し、欠陥の密度と大きさの酸素濃度や熱処理温度と時間に対する依存性を初めて定量的に明らかにした。この成果は、まず結晶メーカの酸素濃度の低減と結晶全体に対する精密制御を先導した。その後は今日あらゆるデバイスメーカーが行っている後述するイントリンシックゲッタリングのための欠陥制御に関する最も基本的な情報となり、その後各社でこれをもとに詳細な検討が行われた。ただし、筆者たちは欠陥を減らすために研究したのに、その後用いられたのは欠陥を制御して導入するためでもあったというのは皮肉である。(欠陥制御については「デバイス・プロセス」の書で採り上げる。)なおLSIプロジェクト終了後の1994年に、通研でgrown-inの空洞欠陥が発見され、結晶成長技術の変革の動機となった。本項目の最も他の項目と異なる点は、研究開始後丁度40年になる現在も社外において研究が続いていることである。そのため、広いスペースを割くことになるが今日までの流れを述べることにしたい。

(2) 評価技術・装置の立ち上げと初期の結晶評価‐化学エッチングとX線トポグラフィ−(スワールフリー結晶の実現)
研究の初期段階では、研究室には結晶評価の手段は汎用的な基盤技術のみで、大口径・高品質で微小な欠陥しかないSi結晶に対する高度な評価・解析装置はなかった。そのため、最初の1-2年の仕事は最新鋭機器の導入であった。直径5インチ程度の結晶のための大型X線トポグラフィー、加速電圧200kVの透過電子顕微鏡(TEM)と、走査電子顕微鏡(SEM)などで、それらは当時フィルムで撮影されていたので暗室を含めて専用の実験室に配置した。SEMは電気信号による撮像を想定していたので範疇としては電気的評価寄りである。これらは当時の結晶メーカーでは殆ど使われていなかったので先導性の発揮に役立った。この他には共通基盤技術である化学エッチングと光学顕微鏡、それにSi結晶で必須とされていた赤外吸収を主に用いた。なお、透過電子顕微鏡については材料分析関連研究室の支援を受けた。
1975年に第T期LSI研究プロジェクトが始まったころの結晶品質は、as-grownウエハでも、その頃の結晶欠陥の評価法として一般的だった化学エッチングにより表面にスワールと呼ばれる渦巻き状の欠陥分布が密に見られるレベルであった(図1a)(最初の発表と論文) [1Daido777879]。また、as-grownや熱処理後にX線トポグラフを撮影すると外周を除いて一面に歪が観察された。そこでこれらの既存技術で品質を評価し結晶成長技術へフィードバックした。観察の結果、成長軸方向では前半部ではスワールが強いが後半部になるとスワールが無くなるようであった。縦割にすると欠陥はほぼ水平に密に並び周期的に密度が変化している。欠陥が並んでいるのはその時々の固液界面に沿っているからであり、その様子から固液界面の形が分かり、成長軸方向に固液界面形状が変化していることが分かった。そして成長開始直後の固液界面が下に凸の所ではスワールが強く、成長後期で界面がほぼ平坦で外周まで含めると下に凹の所ではスワールが無くなるという対応が得られた(図1b)。そこで固液界面を成長の初期から平らにする方法を検討し、種付から径を広げる時に短期間に広げて肩を平らにする代わりに、徐々に円錐状に広げる方法にした処、界面が平らになりスワールが弱くなることを確認した(図1c)[2Inoue2003]。スワールのもう一つの原因として成長速度の微視的な変動が考えられた。固液界面の痕跡が交差していることがあり、再融解を表していると考えられる。成長変動はドーパント濃度の変動も引き起こすため、抵抗率の変動により評価することが出来る。成長中には結晶を回転するが5rpmと20rpmでは、5rpmは成長変動が大きくスワールが顕著で、20rpmでは成長変動が少なくスワールが無くなることが分かった(図1d)。さらに後述するように酸素濃度が高いと欠陥が多くなる傾向があるため、酸素濃度を低減するとスワール対策として効果がある(図1e)。これら3つの方法を総合して第T期 ('75-'77)の終る77年に、目標としていた「高品質」(2μmパターンルールで問題となる欠陥の少ない)に対応するスワールフリー結晶を実現し77年11月の第一回LSIシンポジウムにおいて報告した。以上のようにこの段階では結晶評価に基づくスワールの発生源の考察がスワールフリー化成長技術を牽引した。as-grownでスワールが見えなくなってからも化学エッチングとX線トポグラフィの方法は熱処理後の品質評価法として用いられたが、比重は低下した。

(c) 左:通常の平らな肩部、界面形状は下に凸で、下の方までスワール
右:肩部を円錐形にし界面を平らにして欠陥を低減[2Inoue03].

(3) 赤外吸収による酸素濃度と酸素の析出量の評価
as-grownで見られるスワールなどの欠陥の原因が酸素の析出であることが次第に明らかになって、酸素の析出量の測定が重要になった。赤外吸収では酸素の析出は格子間酸素吸収ピークの周りに波数幅の広い吸収を生じる。そこで格子間酸素吸収や酸素析出吸収の分布をas-grown並びに熱処理後に測定し、スワールパターンとの対応を調べた。析出の多い所では析出していない場所に比べて、格子間酸素による吸収が減少し析出吸収ピークが見られる。図2に熱処理後の分布を示すように、全酸素濃度(1350℃で熱処理して析出物を溶解させて測定)は成長初期から終期にかけてわずかに減少する。これに対して析出酸素濃度はas-grownのスワールパターンの強弱に対応して前半部は多く後半部は少ない。また径方向でもスワールパターンに対応して前半部は外周以外の全体に多いが後半部は外周のやや内側だけに多い。なお成長軸方向や径方向の酸素濃度の微細な変動もフィラメント状の光源と試料の移動装置により分解能約1mmで測定し、わずかに変動があることが確かめられた(最初の学術誌原著論文)。 [3Inoue1978]。これらの結果は上記のようにas-grownの欠陥の低減に活用され、スワールフリー結晶が実現された。
第U期('78-'80)は、as-grownではスワールが無く析出が少なくなったため、デバイス製造プロセスの高温酸化や熱処理により発生する二次欠陥である酸化誘起積層欠陥(Oxidation-induced Stacking Fault、OSF)や転位ループ等が品質の主問題となった。それらは電気的特性不良のリーク電流の原因となるからである。この欠陥も次第に過飽和酸素の析出が原因であることが明らかになって、酸素濃度の低減にさらに努力することにな

った。そのため酸素濃度そのものの評価に重点が移り、赤外吸収法による酸素濃度測定が重要な位置を占めるようになった。酸素濃度測定の結果を製造技術へフィードバックして、磁界引加による極低濃度および極高濃度の酸素結晶育成技術の開発に役立てた。社外では赤外吸収はシリコン産業の生産現場においても生産管理技術として重視されるようになった。このため、酸素・炭素濃度さらにずっと後の窒素濃度の測定については電子協の標準化活動に参加し国際標準化に貢献した(コラム1参照)。

(4) 透過電子顕微鏡による微小欠陥の評価と解析
微小欠陥は年と共に密度が低くなると共に小さくなった。このため化学エッチングでは検出できないものも出てきた。また化学エッチングは欠陥そのものでなく欠陥の周りの歪を検出しているため欠陥の実体は分からないと同時に破壊検査である。X線トポグラフィも分解能においては同様に不十分である。また、初期の欠陥密度が高かったころや熱処理により欠陥を導入した場合には像が重なり合って密度の数え落しが生ずる。そのため、透過電子顕微鏡による「欠陥の大きさ、密度の測定や欠陥構造の解析評価」を行い結晶成長グループにフィードバックした。これは当時としては新しい方法であった。as-grownでスワール欠陥がある時期には、TEMによるその実体は完全転位ループと酸化物析出物であり(図3a)、化学エッチングではそれぞれシャローピット(浅い穴)とヒロック(丘)になることを明らかにした(図3b)[1Daido]。
第U期は、as-grownではスワールが無くなったため、熱処理後に二次欠陥を解析した。その結果、スワールフリー結晶の熱処理後の欠陥の種類はスワール結晶のas-grownの欠陥

と同じ物が多く、二次欠陥である積層欠陥の中心に酸化物析出物があり、酸化物析出物から二次欠陥として直線状にプリズマティック転位ループが並んでいることを明らかにした(図4)。ただしその密度が低く大きさが大きい。欠陥の発生源は酸素の析出であり、酸素濃度はそれほど低くないため、密度が低いだけ1個の欠陥当りの酸素や格子間シリコン原子の凝集量がずっと多くなるためと考えられる[1Daido79]。この頃内外で最も問題だったのは、デバイス製造中の熱酸化工程で生じる二次欠陥の酸化誘起積層欠陥であった。これに関して通研ではその発生核は次項の巨大析出物であることを明らかにすると共に、その析出物からの発生過程を透過電子顕微鏡によるその場観察で初めて図5(a)のように明らかにした[4Wada79]。その後OSFの類似研究は90年代初めまで盛んに外部で行われている。これらの結果は図5(b)に示すように、プロセス後の欠陥を第U期 ('78-'80)の目標である「無欠陥」にふさわしい「検出限界以下」に、1980年12月の第2回LSIシンポジウムの時点で達成することに活かされた [5Inoue80,81]。

(a)完全転位ループ(L)と酸化物析出物(OP)、(b)エッチング像、左: 転位ループのピット、右:酸化物析出物のヒロック
図3 スワール欠陥の電子顕微鏡像[1Daido]

(a)巨大な積層欠陥、(b)酸化物析出物から列状に並ぶプリズマティック転位ループ
図4 スワールフリー結晶の酸化後の欠陥の電子顕微鏡像[1Daido]

左:図5(a) 熱処理による酸化物析出物からの積層欠陥の発生機構[4Wada79]
右:図5(b) 微小欠陥密度の酸素濃度依存性、第T期計画の目標達成[5井上8081]


一方電子顕微鏡の真価は、擬似その場観察による欠陥の発生や成長機構の解析で発揮された。これにより図6に示すように低温−高温2段階処理を確立し、臨界半径の概念を適用し、酸素の過飽和度が大きくなる低温で核形成が桁違いに多くなること、低温熱処理時間に比例して析出物密度が増えること、酸素濃度が10%増えると析出物の密度が1桁増えることなど、過飽和度や過冷却度の大きい場合に起きる均一核形成の現象論で説明でき、密度を定量的に表せること、析出物の形はそれまで報告されていた8面体でなく正方形板状で拡散律速成長することを明らかにした(最初の総合報告)[6井上79]。その結果はシリコンデバイス産業や結晶産業において、結晶成長後の熱処理や加工プロセスなどの工程の制御に利用された。(これらの詳しい内容は「デバイス・プロセス」の書で述べる。)表2.5.4.1にSiの結晶欠陥の低減の歴史をまとめる。第V期('81-'84)では、前半は熱処理における欠陥の発生・成長機構の解析が主体で、83年に厚木に移転してからの後半にはSiの評価の研究者は化合物半導体結晶の評価や薄膜成長に主担当テーマが変わったため組織的な研究は行われなくなった。

図6 酸化物析出物の発生と成長の定量的研究[6井上79]、左上:析出物密度の低温熱処理時間に対する依存性、右上:析出物密度の低温熱処理温度と酸素濃度に対する指数関数的依存性、左下左:析出物の過飽和度に依る生長と収縮の臨界半径の概念図、下右:正方形板状析出物の拡散律速成長

      表2.5.3.1 Siの結晶欠陥低減の経過 [5井上8081]

(5)grow-inの微小析出物と巨大析出物の提起




2003年
応用物理 第 72巻 第5号, 550-556 (2003)

バルクシリコン結晶における分析・評価技術

井上直久 大阪府立大学先端科学研究所

半導体大規模集積回路の基板には主に引き上げ法で成長されたバルクシリコン結晶が用いられる.集
積回路の微細化・高集積化とともに,回路の歩留まりや性能を制限する結晶欠陥やその原因となる点欠
陥が低減されてきた.これには,欠陥や点欠陥などを分析・評価する技術の進歩が役立っている.最近
の進歩と今後の課題を,重要性の高い,欠陥と点欠陥の評価技術,窒素不純物濃度の測定技術を例とし
て解説する.また,これらの技術の国際標準化の動向を,関連する技術とともに紹介する.

1. まえがき
シリコンデバイスの微細化・高集積化・高機能化は不断
の課題であり,これに用いられる引き上げ法(Czochralski:
CZ)成長バルクシリコン基板結晶は驚異的な進化を続けて
いる.バルクシリコン基板結晶に要求される課題は,大直
径,無欠陥・清浄,高ゲッタリング能力,平たん性,低コ
ストなどである.....したがって,本小特集の主題である分
析・評価技術は,これらの実現を支援する手段と考えられ
る.本稿では,シリコン基板産業における主な課題に関連
した分析・評価技術について,現状と課題を検討したい.
無欠陥化に関しては,欠陥と欠陥を構成する点欠陥の評
価技術が重要であり,同時に,無欠陥化技術として注目さ
れている窒素ドープに関して,窒素の濃度の測定技術が待
望されている.清浄化とゲッタリング(欠陥を利用した汚
染の除去)に関しては,重元素や表面の分析技術が重要で
ある.平たん性は分析・評価の通念からは外れているが,
微細化に直接関連する重要な項目である.ただし,誌面が
限られているので対象を欠陥関連に絞る.なお,これらの
評価技術はわが国の貢献が大きく,国際的な標準化も重要
なので,その見通しについても触れる.
2. 欠陥評価技術
シリコン基板には従来からいろいろな結晶欠陥が含ま
れ,デバイスの性能低下や不良を引き起こすため低減され
てきた.このため,結晶欠陥の評価技術も発展してきた.
欠陥の評価においては,欠陥を検出し欠陥の種類,構造,
大きさ,分布などを知る必要がある.またその際,非破壊
とか迅速とか数え落としがないとかが要求される.
この稿では,最近最も問題となっている,点欠陥の一種
である空格子の凝集した空洞欠陥を主な例として,最近の
評価技術の進歩と課題を紹介する.この欠陥はゲート酸化
膜耐圧不良の原因であることが判明したが,欠陥が同定さ
れるまでは,表面に付着した微粒子ごみを検査するパー
ティクルカウンターで検出され(このためCrystal
Originated Particle,COP と呼ばれていた),化学エッチ
ング(Flow Pattern Defects :FPD)や赤外散乱法(Laser
Scattering Tomography Defects :LSTD)でも検出・評価
されていた.....これらは,世界のシリコン基板の7割のシェ
アをもつわが国のウエハーメーカーが主に開発した方法で
ある.なお,成長後熱処理などをしていないas-grown結晶
には,空洞欠陥より微細で高密度の酸素の析出物(シリコ
ンとの化合物)があり,ゲッタリングに用いるために熱処
理により導入されるので,その評価も重要である.
従来はバルク結晶基板の欠陥の評価・計測は主に化学
エッチングが用いられていたが,空洞欠陥が減少し,窒素
ドープ技術により微細化するのに伴い,従来の方法では検
出が困難になり,一方,異なる方法の間でデータの不一致
があり,評価技術の高度化と確立が望まれている.また,
酸素の析出物は空洞より小さく,エッチングでの評価が難
しい.そこで光散乱法が注目されるようになってきたので,
本稿では散乱法に重点を置いて説明する.
欠陥による光の散乱は,欠陥および周囲の領域の電子分
布が完全結晶と異なるために,入射波により励起される電
気双極子モーメントが局所的に変化するために生ずる.....
図1に装置の模式図を示す.....散乱光強度は一般に大きさ
の6乗に比例するため,散乱強度から大きさに関する情報
が得られ,散乱光の分布から形状についての情報も得られ
る.大きさ数十nm までの空洞が検出でき,大きさは既知の
大きさのラテックス粒子の散乱強度や透過電子顕微鏡観察
による空洞の大きさの測定により校正される.
光源には赤外線....または可視光(ブリュースター角で入
射)....が用いられており,光の入射方法はウエハーをへき開
し断面から....と,表面から入射させる方法がある.断面から
光を入射させると,欠陥の深さ分布や面内分布や表面無欠
陥層の深さを求めることができる.表面からの入射は非破
壊で検査できるが,表面のごみとの区別が必要なことと,
断面観察法に比べて微小な欠陥に対する感度が不利な点
や,表面付近を評価することが難しい点が問題である.
最近の課題に応じて,いろいろな新しい方法が提案され
ている.欠陥の微細化に対しては,多波長法が提案されて
いる.....欠陥の深さ方向分布を知る新しい方法として,基板
の温度をわずかに変えて吸収係数を変化させる方法が提案
されている.....レーザー顕微鏡による検出限界の向上も報
告されている.....
最近,赤外散乱法で検出の困難な微細化する欠陥を検出
できるドライエッチングによる方法が提案され....,注目さ
れている.シリコン基板の主要な欠陥である酸素の析出物
はシリコン酸化物であるため,シリコンとシリコン酸化物
とのエッチングの選択比を利用して欠陥部分を残存させ検
出する方法である.実際には図2(a)〜(c)に原理の模式
図と観察例を示すように,酸化物を頂点とする円すいが形
成され,数と高さの分布から析出物の密度と深さ方向分布
が求められる.また(d)に示すように,先端の形状や大き
さから欠陥の形状や大きさに関する情報が得られる.基本
的なエッチング条件はHBr/NF../He+O..混合ガスを使
用し,Si/SiO..の選択比は約200である.エッチングにより
検出される析出物の大きさの下限は数nm である.空洞欠
陥も酸化膜を内壁に伴いシリコン酸化物を含むため検出で
きることが示されている.現在,わが国で生まれた散乱法
による欠陥評価技術の世界標準化の検討に着手している.
空洞欠陥の実体・構造や窒素の状況を知るために,透過
電子顕微鏡が活躍している.COP やFPD と呼ばれる欠陥
を電子顕微鏡で見ることができなかったのは,欠陥を残し
たまま欠陥位置を指定し,その場所を1μm 以下の試料に
残し,かつ試料の中で欠陥を高倍率観察により見つけ出す
ことが困難だったためである.これらを解決することによ
り,正..面体に近い空洞欠陥であることや,内壁に酸化物
をもつことや,2個連なっている場合が多いことなどが明
らかにされた.......また最近では,窒素ドープの場合の空洞が
板状であることや,窒素の析出を伴うことなどが明らかに
されている.図3に電子顕微鏡像と電子エネルギー損失ス
ペクトルを示す.......
3. 点欠陥評価技術
引き上げ法シリコン結晶は最も高純度・完全な結晶であ
るが,点欠陥は10..../cm..程度,酸素・炭素はそれぞれ約1
×10..../cm..,10..../cm..以下含まれており,これらが格子欠
陥を形成する.したがって,点欠陥や軽元素不純物の評価
技術が必要である.中でも,点欠陥は格子欠陥の構成主体
であり,その飽和濃度や拡散係数などの基本的な性質を知
ることは,欠陥の形成機構の解明や制御技術の開発にとっ
て不可欠である.
しかし,濃度が低いことと,一般に電気的・光学的に不
活性なために適当な評価法がない.As-grown結晶中では
大部分が二次欠陥に変わってしまって残りが少なく,高温
に加熱すると平衡な濃度は増えるが拡散速度が大きいた
め,冷却過程で空孔(v)と格子間原子(i)の対が消滅し室温
までの保持は困難である.このため,これまで間接的な特
性の推定や,評価法の検討が行われてきた.
すなわち,欠陥の挙動から点欠陥の挙動を逆に推定する
方法と,電気的に活性な不純物の拡散が点欠陥を媒介にし
ていること,または不純物と点欠陥の複合体の電気的・光
学的活性を利用して,これらの評価から点欠陥の挙動を推
定する方法である.空孔型欠陥を直接評価する方法として
陽電子消滅法があるが,電子線照射などにより人為的に高
濃度に導入した場合にしか感度が足りないので,完全に近
いシリコン結晶の定量的評価には成功していない.
空孔濃度について定量的で詳細な実験が行われているの
は,白金との複合体の場合である.......この方法はシリコン基
板の表面から白金を拡散させ,白金が空孔を置換してでき
た格子位置の白金による深い準位(価電子帯上端から
0.330eV)の濃度を過渡深準位分析法(Deep Level Transient
Spectroscopy:DLTS)により測定する.As-grown
結晶中の空孔の濃度を測定し後述の推定と近い値を得てい
るほか,高温での熱処理と急冷をした試料により図4に示
すように,空孔と格子間原子の平衡濃度の差の温度依存性
も求めている.窒素ドープによる深い準位濃度の違いを検
出し,窒素ドープによる空孔濃度の変化の傍証としている.
ただし,拡散による空孔濃度の変化,置換型白金が空孔以
外の原因によりできる可能性,空孔と白金の反応により置
換型以外の白金ができる可能性など,誤差の要因を含んで
いる可能性がある.
一方,高温での空孔に対しては水素との複合体の赤外吸
収を利用する方法が提案されている.......水素雰囲気中
1300℃以上で熱処理することにより空孔を形成し同時に水
素との複合体とし,容器を水中に投入し急冷することによ
り濃度を保つ.こうしてできる複合体は結合原子数の異な
る種類があるため,450℃の熱処理によりすべてをVH..に
変化させ,これによる2223cm....の赤外吸収ピークの強度
を液体ヘリウム温度付近で測定する.このピーク強度の熱
処理温度依存性から空孔の形成エネルギーが測定され,4.0
eV という値が得られている.このほかに,空孔と後述する
窒素との複合体についてDLTS で検出できるとする報告
がある......が,まだ確証が得られていない.
一方,点欠陥濃度の推定の主な方法は,二次欠陥の挙動
から再現する方法と,電気的活性な添加不純物(ドーパン
ト)の拡散現象を点欠陥を担体とする機構モデルにより解
析する方法である.前者については以下の解析が行われて
いる12).
無転位シリコン結晶中の二次欠陥は格子間型と空孔型が
あり,成長速度と固液界面直上の温度こう配の比で決定さ
れる.その理由は,固液界面における点欠陥濃度はほぼ平
衡で空孔濃度(....)がやや高く,成長速度が速い場合には
成長とともに空孔優位が結晶にもち込まれ,温度こう配が
大きい場合にはドリフトにより界面から格子間原子が内部
まで供給され(....),優勢が逆転するためと考えられている.
融点での....−....の平衡値(融点での優勢度............
−............)は約2.5×10..../cm..と見積もられている(図4の
直線の左端).温度の低下とともに平衡濃度は急速に減少す
るため,空孔と格子間原子は対消滅し,残った点欠陥が過
飽和になることにより二次欠陥が形成される.
シリコン結晶中の点欠陥の濃度に対する最も直接的な情
報として,空洞欠陥(約1100℃で発生)の体積と密度から
欠陥に凝集した空孔の濃度を見積もることができる.欠陥
密度は通常10../cm..台であり,空洞の大きさから見積もら
れる空孔の量は1個当たり,約10..なので,上記温度で析出
した空孔の濃度は10..../cm..台となる.......
拡散の利用では,自己拡散(放射性同位元素/トレーサー
法と,天然に存在する質量の異なる同位体を用いる方法が
ある)......,不純物拡散,二次欠陥の成長速度............などによる
多くの解析が行われているが,最近まで信頼できる値が得
られなかった.自己拡散も大部分は原子の直接交換や純格
子間拡散ではなく,点欠陥を媒介とするため,自己拡散係
数..........は(................+................)/....で与えられる.ここで,
....,....は空孔型または格子間型の寄与の割合,....は格子点
の密度である.自己拡散からはカッコ内の合計しかわから
ない.これを空孔と格子間原子や拡散係数と平衡濃度に分
解する必要があるが,その方法に問題があるため従来の結
果にばらつきが生じている.一方,上述の白金と同様にZn
は格子間を高速に拡散するが,最終的に格子間にSi原子を
追い出して置換原子となる.詳細は省くが,このような機
構の異なる不純物の拡散を調べることにより,これらの分
解が可能となる.......図5(a)〜(d)に,現在信頼できるとさ
れている空孔と格子間原子の平衡濃度と拡散係数(▲)な
どのグラフを示す.......
4. 窒素濃度測定技術
前章に述べたように,窒素ドープは基板表面のデバイス
活性領域の欠陥を減少させ,活性層の下に汚染のゲッタリ
ング層を形成する効果があるため,最近,基板によく用い
られるようになった.欠陥やゲッタリング層の振る舞いは
図6に示すように,窒素濃度10..../cm..以上で効果があり,
濃度に敏感に依存し......,基板の用途によってそれらに対す
る要求が異なるため,窒素濃度を精密に制御する必要があ
る.したがって,窒素濃度を正確に測定することが必要に
なってきた.
シリコン結晶中の軽元素不純物は,局在振動により赤外
活性なため,重要な不純物である酸素(濃度は約1×
10..../cm..)と炭素(濃度は10..../cm..以下)の濃度は赤外吸
収法により測定されており,標準測定法および濃度と吸収
係数との換算係数についての世界標準がある.窒素につい
ては,実用上の必要がなかったため,測定技術が確立され
ていなかった.浮遊帯域法(Floating Zone:FZ)結晶につ
いては,赤外吸収と放射化分析との校正により換算係数が
報告されている.......一方,二次イオン質量分析法(Secondary
Ion Mass Spectrometry:SIMS)による測定法はデ
バイス製造の関連で開発が進み,最近,規格が制定され
た.......しかし,シリコン産業の主役である引き上げ法結晶に
対応し,しかも今後必要とされる低濃度が測定可能で簡便
な方法が必要である.そこでわれわれは,酸素・炭素濃度
測定法の標準化の実績のある電子情報技術産業協会
(JEITA)において,測定法の検討から始めて標準化に向け
て活動している.本稿ではそれを中心に紹介する.
浮遊帯域法結晶中では窒素による赤外吸収が963cm....
と764cm....にピークをもち,その吸収係数から窒素濃度が
決定される.酸素を含むCZ 結晶中では,この吸収が濃度か
ら期待されるより小さく直線関係もなく,測定ができな
かった.......その後,窒素の構造と赤外吸収の起源の研究が進
み,FZ 結晶ではほとんど図7(a)に示す格子間窒素対......
を形成し,CZ 結晶ではこれがさらに酸素と図7(b),(c)
に示す複合体......を作るため,このほかに吸収ピークをもつ
とされた.従来の研究では,CZ 結晶でも窒素対の吸収ピー
クのみから濃度が決定されていたので,明らかに過小評価
となっている.
一方,酸素を含む場合の吸収スペクトルの起源が検討さ
れ,従来の研究を総合すると図8のように推定される.......ま
た,熱処理によりこれらのピークの大きさが変化すること
が知られており,窒素対と窒素酸素複合体との間の可逆変
化によると推定されている.......
これらのことから,as-grown結晶中の窒素の大部分は
図7に示した3種の複合体のどれかの形態をとっていると
考えられる.したがって,これらの吸収の和をとることに
より全窒素濃度が測定できると考えられる.
この場合に従来の酸素・炭素と異なり問題となるのは,

図7 窒素複合体の構造模型.......(a )格子間窒素対,(b )格子間窒素
対・酸素1個複合体,(c)格子間窒素対・酸素2個複合体.......

図8 赤外吸収スペクトル......と主要ピークの振動子強度比.......Dは分
極の大きさ(任意単位,振動子強度はその2乗に比例),..は濃
度と吸収係数の換算係数,963cm....の数値はFZ結晶で定めら
れた値.......

複数の構造に対応する吸収係数から濃度を求める際には,
各構造の振動子強度の逆数の重みを掛けて加える必要があ
るということである.振動子強度に関する情報は,熱処理
による赤外吸収係数の変化の様子からも得られるが,不完
全である.このため,われわれは分子軌道法計算による構
造の最適化と原子価力場モデルによる振動子強度の計算に
より,その比率を理論的に決定し用いることとした.結果
を図8に添えて示す.......この結果は実験結果とも整合して
おり,妥当と考えられる.実際の測定にあたっては低濃度
であることから../.. を高める必要があり,試料の厚さを
10mm としている.また,窒素ピークの周りに酸素起因と
みられるピークを伴うので,消去するとともにデータ処理
の必要がある.これらの詳細は,誌面の都合で電子協報告
書......に譲り省略する.
なお,10..../cm..以下の低濃度になると以上の局在振動に
よる吸収では濃度測定が困難になる.一方,低濃度結晶で
液体ヘリウム温度のような低温で,長波長域に図9 に示す
ような吸収が観測され,電子遷移によると報告されてい
た......が,これを用いた濃度測定が有望とされている.
SIMS による窒素の分析の標準方法は最近,ASTM
(American Standard for Testing and Materials)規格と
して定められた.......われわれは,複数機関の測定による精度
の向上,今後の低濃度結晶への対応などを以下のように検
討している.SIMS においてはCs一次イオンの照射によ
り放出される窒素の二次イオンの量から窒素濃度を求め
る.信号強度の校正のための濃度標準として,窒素をイオ
ン注入した試料を用いる.窒素は分析中の試料表面や真空
容器の内壁などに付着しているため,バックグラウンド信
号が大きく,測定誤差を生じる.このため,測定にあたっ
てはいかにバックグラウンドを小さくするか,バックグラ

図9 窒素の電子遷移による赤外吸収スペクトル.......N-1,N-2は試料
名,数字1〜5のピークが該当,I〜Vは遷移のグループ,Pはリ
ンによる吸収.

ウンドに対してどのように補正をするかが重要となる.測
定は細く絞った一次イオンを試料表面に走査するが,走査
面積を狭めたときの信号の増大を利用する「ラスター変化
法」......により感度・精度が改善された.
図10(a)にSIMS 分析による濃度と赤外吸収係数の関
係を示す.......両者の関係はきれいな直線に乗っている.引き
上げ法結晶と酸素を含まない浮遊帯域法結晶で関係に差が
ないことから,格子間窒素対のみの浮遊帯域法結晶と同様
に,引き上げ法結晶でも上記の三つの吸収ピークを重みを
つけて加える方法により,ほぼ全窒素の濃度が測れている
ことがわかる.さらに図中の直線は,以前にFZ 結晶におい
て放射化分析と赤外吸収により得られた換算係数......を表
すが,今回の結果はそれとよく合っている.これは,今回
の赤外吸収とSIMS 分析の精度がどちらも高いことを示
しているといえる.一方,感度については,図10(b)に例
を示すように,約4×10..../cm..の低濃度まで測定が可能と
なっており,赤外吸収に比べて感度がよい.......
SIMS 測定の問題の一つは,窒素濃度の高い試料では深
さ分布にパルス状のスパイクが現れ,走査像に輝点が現れ
るのでこれをどう処理するかである.これは上に述べたよ
うに,Si-N 化合物の析出と考えられている.SIMS ではこ
れまで,1機関ではスパイクを含むデータを加算し,ほかの
1機関では無視した.上記の電子顕微鏡などによる研究に
よれば,析出している窒素は全窒素の1割前後とみられて
おり,スパイクの単純加算は過剰見積もりになる可能性が
ある.したがって,この程度の誤差を認める段階ではスパ
イクを無視するほうがよいと考えられる.以上の赤外およ

図10 窒素濃度のSIMS測定結果.(a )赤外吸収係数とSIMS濃度の
関係,CZ,FZは結晶の成長法(本文参照).......(b )低濃度の測
定,A,Bは測定機関.......

びSIMS により,CZ 結晶中の窒素濃度の基本的な測定方
法が確立できたといえる
これまでの酸素,炭素の場合は,絶対濃度の測定は放射
化分析が用いられてきた.また,窒素の場合もFZ 結晶では
放射化分析が用いられてきた.......陽子の照射による次の核
反応を利用している:....N(p,α)....C.すなわち,窒素に陽子
を照射するとアルファ線を放出して放射性の炭素に変換
し,炭素が半減期20分で陽電子を放出して崩壊し,陽電子
が消滅するときに放出するガンマ線を測定する.照射には
サイクロトロンが用いられるので,実験できる施設が限ら
れる.従来の窒素分析に用いられていた理研や軽元素分析
の試みられていた東大核研の施設はすでに廃棄されたの
で,新たな施設で行う必要が生じた.また,精度を上げる
ためには複数の機関で実験し比..することが望ましい.そ
こで,分析サービスを実施している企業に協力を求めた.
一方,核研は高エネルギー研に統合される一方で,日本ア
イソトープ協会のサイクロトロンで分析装置を立ち上げる
計画があったので参加を要請した.
放射化においてはいろいろな核反応が生じるので,照射
後窒素起因の核種....C のみを分離し信号の測定を行う.分
析は半減期が短いので分離操作を手早く,しかし照射試料

の収率を落とさず一定にする必要がある.シリコン
産業で広く用いられる引き上げ法(CZ)基板結晶に
はホウ素が窒素よりも高濃度で含まれ,ホウ素の反
応により同じ核種が生じるため,測定を妨害し誤差
の原因になるという問題がある.はじめにホウ素の
影響を避けるため,FZ 結晶の分析を行った.結果を
表1に示す.......再現性はよく,赤外吸収からの推定値
2.1×10..../cm..にも近いので,低濃度の初期値にし
てはよい結果が得られた.現在,CZ 結晶について検
討を進めている.
ところで窒素が二次欠陥の挙動に影響することか
ら,何らかの窒素−点欠陥複合体が存在し影響して
いる可能性があるが,その検出が困難である.上に
述べたように窒素−空孔複合体のDLTS はまだ確
証がない.一方,窒素−空孔複合体や,窒素−格子
間原子複合体の理論的モデルが提案されている.......
われわれは,窒素−空孔複合体の赤外吸収による評
価を目標に,赤外活性とそのピークの位置を分子軌
道法により予測し,格子間窒素対の二つの主要ピー
クと同じ程度の振動子強度をもつピークがそれらの
中間の波数域に出現するとの結果を得た.......問題は
濃度であるが,10..../cm..台の後半であれば検出でき
る可能性があり,DLTS とともに研究の必要があろ
う.
5. むすび
バルクシリコン結晶・基板に関連する分析・評価
技術の代表例について,内容と課題を述べた.誌面
の制約により,欠陥評価,点欠陥評価と窒素濃度測
定に話題を絞り,基本技術から最近の新しい発展まで紹介
した.
先端材料とその分析・評価は,これらの技術に限らず,
わが国が戦略をもって国際競争力を維持し,先導性を発揮
しなければならない分野である.米国では,シリコン基板
そのものについては,その戦略的重要性が認識され大統領
自ら関与して力が入れられてきた.また,シリコン半導体
産業については戦略的にロードマップを作っている.一方,
わが国では,実用的な分析・評価技術は必要性を熟知した
ウエハーメーカーが主として開発してきたが,最近の業績
低下により研究・開発が困難になってきている.一方,大
学や関連企業で独立に研究されてきたことが,最先端の評

表1 FZ結晶の放射化分析の結果の例.......

価・解析に導入される事例も見てきた.今こそ戦略的な産
学連携が必要と思われる.
また,国際競争力・先導性の維持には,標準化において
主導権をとるのが重要なことは今や常識となっている.本
文で取り上げなかった例を紹介する.まずウエハー表面の
極微量金属の分析法として,全反射蛍光X 線分析法の国際
標準化がわが国を幹事国として進められ,ISO14706にお
いて規定され,その後,金属の回収法の検討が進められて
いる.......デバイス製造,特にリソグラフィー(露光)と多層
配線に重要なウエハー仕様として表面の平たん性がある.
平たん性はデバイス製造工程により異なる要求をもつが,
最近,重要視されているのがnanotopographyと呼ばれる
特性である.また,露光に関してはウエハーとウエハー
チャックの相互作用も解析する必要があることが,電子協
を中心にウエハーメーカー,デバイスメーカー,デバイス
製造装置メーカーの連携により明らかにされ,先導性をも
とに国際標準をめざしている.......
本稿のうち,筆者のグループの研究の一部は日本学術振
興会未来開拓事業の援助を受けた.窒素濃度測定の内容は
電子情報技術産業協会における共同作業の結果であり,委
員および関係機関に感謝する.そのほか多くの原著者の方
に教示をいただき,また図表の掲載を許可していただいた
ので感謝する.原稿作成に協力してくれた濱田未央さんと
松本智和君に感謝する.
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炭素濃度・窒素濃度測定

高感度赤外吸収による極低濃度測定と標準化




照射誘起複合体

高感度赤外吸収と分極計算・理論研究との融合による、赤外欠陥動力学





酸化物析出物

電子顕微鏡による測定と擬似その場観察

微小欠陥の密度はそれまで化学エッチングによる面密度測定で扱われており、発生機構などの解析が定量的に行われていませんでした。
本研究ではエッチング深さを測定して体積密度を求めるようにしました。
高密度ではエッチング痕が重なって密度を求めることができませんでしたが、電子顕微鏡観察と試料厚さの見積もりにより測定可能としました。
高温熱処理の時間を変えて試料を作り、酸化物析出物の密度や大きさや二次欠陥発生の時間変化を観察し、擬似その場観察により動的挙動の解析を可能にしました。
またそれを超高圧電子顕微鏡を使って行い、微視的構造を明らかにし、厚い資料で低密度の欠陥を観察しました。


1975年

最初の評価解析設備

1975年にシリコン結晶の研究を始めたときに設置したのが以下の設備である。
高良和武先生に学んだX線回折精密測定、千川純一さんン学んだその場観察が基礎である。
それから、欧米の進んだ研究と勝負するには、日本の得意とするシリコン結晶と電子顕微鏡を組み合わせると良いのではないかと考えた。
先行研究にも散られていたSEMと赤外吸収の用意した。
電気的な評価技術は別グループが勧めた。



2020/03/04開始