シリコン結晶研究のルネサンス

siliconet

シリコン結晶の分析評価技術の研究と開発の歴史

シリコン結晶の品質の向上は、それに応じた分析評価技術の開発に支えられています。
シリコンデバイスと結晶の研究開発の歴史を4段階に分けていますが、ここでは分析評価技術の歴史を見ていきます。

初めに
シリコン結晶は、色々な電子材料の中で最も純度と完全性の高い結晶です。
そのため、評価技術は一般的に最も高感度で高分解能なものが必要とされ、開発され、用いられていました。
一般に最も高感度なのは電気的測定技術ですが、物によってつかえる方法に限りがあります。。
高分解能と言えば電子顕微鏡が一番に考えられますが、走査トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡は表面限定ですが新しい強力な技術です。

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1 分析評価技術の概要
構造、化学、光学、電気、その他

2 シリコンデバイスと結晶の草創期の分析評価技術(LSIの時代初期まで)
四探針法、拡がり抵抗法SR法
化学エッチング
X線回折、X線トポグラフィー
赤外吸収法(回折格子分散型)
質量分析、放射化分析
詳細省略

電子顕微鏡

3 LSI時代の新たな分析評価技術
電子顕微鏡
SIMS
DLTS
フォトルミネッセンス
赤外吸収法(フーリエ変換型)
光散乱法
K.Moriya and T.Ogawa :Jpn.J.Appl.Phys.22,L207(1983).
5) K. Moriya, A. Yazaki and K. Hirai:Jpn. J. Appl. Phys. 34,5721 (1995).
6) 南郷脩史,小川智哉:日本学術振興会結晶加工と評価145委員会第90回研究会資料,p. 48 (2001).

4 System on chip時代の新たな分析評価技術
電子顕微鏡
M.Itsumi,H.Akiya,T.Ueki,M.Tomita and M.Yamawaki:Jpn. J. Appl. Phys. 35, 812 (1996).
ドライエッチング
中嶋健次,渡辺行彦,吉田友幸,光嶋康一,井上直久:シリコンテクノロジー,No. 28, 16 (2000).

原子間力顕微鏡


5 パワーデバイス時代の新たな分析評価技術


その他
測定法の国際規格



参考文献
半導体評価技術、河東田 隆 (集積回路プロセス技術シリーズ)、産業図書、1989.2東京.
バルクシリコン結晶における分析・評価技術、井上直久、応用物理, 72-5, pp. 550-556 (2003).
Electron Microscopy of Thin Crystals, P.B. HIRSCH, A. HOWIE, R. B. NICHOLSON, D.W. PASHLEY and M.J.WHELAN. Pp.549, 381 figures. Butterworths, 1965.
和訳書、透過型電子顕微鏡,幸田成康監修、諸住正太郎他訳、「透過電子顕微鏡法」、コロナ社(1974年)絶版.


「半導体加工装置・生産管理技術」 
2.5.3 LSI用Si結晶の評価解析とデバイス応用

目次
2.5.3.1 はじめに
2.5.3.2結晶評価と結晶製造技術へのフィードバック
(1) はじめに
(2) 評価技術・装置の立ち上げと初期の結晶評価‐化学エッチングとX線トポグラフィによる欠陥の評価
(3) 赤外吸収による酸素濃度と析出量の評価
(4) 透過電子顕微鏡による微小欠陥の評価と解析
(5) grown-inの微小析出物と巨大析出物の提起
(6) 空洞欠陥の発見と結晶成長技術の転換
2.5.3.3 デバイスによる電気的評価と結晶製造技術へのフィードバック
(1) はじめに
(2) 非接触電気的評価技術の開発
@ 非接触比抵抗測定法
A 非接触ライフタイム測定法
(3) 欠陥などの電気的評価とMOS LSI用Si結晶仕様
2.5.3.4 まとめ
参考文献
コラム1 赤外吸収による酸素の研究の源流と酸素・炭素濃度測定法の世界標準化
コラム2 通研と超LSI共同研究所の結晶研究の比較
コラム3 Si結晶製造技術と評価技術の今後の展望

2.5.3 LSI用Si結晶の評価解析とデバイス応用
2.5.3.1 はじめに
通研におけるSi結晶の研究は、1975年に開始されたLSI研究プロジェクトの一環として結晶材料研究室において結晶成長、結晶学的評価、電気的特性評価の3つの研究テーマで始められた。この研究を担った結晶材料研究室のメンバは、それまで磁性材料の結晶育成から磁気バブルメモリの作製まで行っていたが、Si結晶は研究を始めるまで見たことも触ったこともない者ばかりであった。この点はほぼ同時期にプロジェクトを開始した超LSI研との大きな違いである。(コラム欄2参照)ただし結晶成長ではSi結晶と同じ引上げ法によりフェライト結晶の成長を行っていたことが基礎となり、電気的特性評価では研究開発していた磁気バブルメモリの評価技術が応用され継承された。一方、結晶学的評価は専門的な研究者と装置がない点でそれらと異なっており共通基盤技術があるのみであった。このため最初の1-2年は知識も装置もゼロからの立ち上げで4年後には他のテーマへの移行が始まり、本格的な研究期間はわずかであった。この項では、結晶製造技術が主題となる本書の性格から、結晶評価と電気的評価については、結晶成長技術の開発をサポートした面、具体的には品質の基準とそれによる評価を中心に述べることにし、品質基準の根拠となる結晶欠陥などの形成機構は含めない。なお、電気的評価は、ウエハのままあるいは簡単なMOS素子などを試作して行われたが、最終のデバイス試作と特性評価は他研究室で行われた。後者についても簡単に紹介する。
Si結晶の場合、結晶評価と電気的評価には、成長結晶の品質評価の他にも役割がある。結晶品質は加工プロセス条件により大きく変化するからである。研究の初期には成長したままの結晶に顕著な欠陥があったため、結晶評価も電気的評価もas-grown結晶を評価し、フィードバックして良い結晶を作ることが主眼だった。しかしある程度as-grownの欠陥が減ると、それよりも加工プロセス後に顕在化する二次欠陥の方が支配的になった。そこでこれらの二次欠陥とas-grownの結晶品質の関係を調べ、「加工プロセスによる二次欠陥のできにくい」結晶を成長することが課題となった。その後さらに、加工プロセスやその前の結晶の熱処理により欠陥を制御することによるデバイス特性の向上も行われるようになり、結晶成長の目標も「加工プロセスにおける二次欠陥の制御」に主眼が置かれるようになって今日に至っている。但し本項ではその内成長技術へフィードバックすることに絞る。(本書とは別に「Siデバイス・プロセス」が予定されており、同書では「結晶成長、熱処理、デバイス製造の三段階のプロセス制御」について述べることにしたい。結晶成長における「酸素濃度の制御や欠陥低減」、結晶評価では「熱処理によるゲッタリング中心である酸素析出の密度と大きさの制御」、電気的評価では「プロセス中のゲッタリング効果の制御」を主に採り上げる予定である。)
LSIプロジェクト期間中の通研の研究を所内の位置づけから振り返ると以上のようになるが、世の中のシリコン結晶成長技術全体の長期の研究・開発の技術史の中で位置付けることも必要と思われる。全体としてはプロジェクト開始前から現在までは「高品質化と大型化」の歴史と言える。高品質化については、大型化と違って、プロジェクト期間中の外部の研究としては、技術的な議論よりも、欧米の研究者による科学的なgrown-in欠陥の種類や形成要因が主題となっていた。そして主なトピックとして66年のスワールの発見、プロジェクト開始時の75年に格子間型転位ループの電子顕微鏡観察があった。そして81年に成長速度が速いと空孔型、遅いと格子間型と見られる欠陥が見出されたことにより、両方のタイプが議論となり始めた。ただしこれらの研究はFZ結晶を対象としており、CZ結晶については分かっていなかった。そしてその直後の82年にVoronkovのV/G(Vは成長速度、Gは結晶中の温度勾配の固液界面直上の値)がこの区別を決定するという理論が現れて、CZ結晶中の欠陥との関連が議論されるようになって現在の技術につながっている。一方技術面では、わが国を中心にLSIプロジェクトの本格化した時期以降に、融点でも濃度が1014cm-3前後と低い真正点欠陥によるgrown-in欠陥よりも、CZ結晶では1018cm-3と高濃度の酸素不純物による二次欠陥の方が多くなったため、酸素濃度の制御が二次欠陥制御のために必須となった。そしてわが国では科学研究よりも現場の技術者の経験と勘により高品質化や酸素濃度制御がなされた。このような流れの中で、通研のプロジェクトは、成長では干川による酸素濃度の制御、評価は筆者らの酸化物析出物の発生成長機構の解明、という科学的な研究を基礎に進め、外部の技術に利用された。一方Grown-in欠陥とV/Gの関係の科学研究は、その後次第に主としてわが国において欠陥低減技術に採り入れられていった。そして1995年空孔型の空洞が通研の逸見らにより発見され、V/Gによる点欠陥制御という科学と技術の融合した研究・開発体制への進化を加速した。大型化は生産につながらない通研では研究費の限界により続けられなかった。

2.5.3.2結晶評価と結晶製造技術へのフィードバック
(1) はじめに
LSIプロジェクト中のSi結晶成長の技術開発は、比較的短期間に品質が向上したため、評価対象もそれにつれて変わった。そのため、評価は最初は世の中で行われている既存の技術を用いることが主体だったが、品質向上とともに新しい評価法が必要となった。また、初期にはas-grown結晶を評価すれば良かったが、後には二次欠陥が主題となり、デバイス製造工程後も高品質を確保するための結晶成長後の熱処理による品質変化の評価や、デバイス製造工程で欠陥を制御するための、熱処理における二次欠陥の挙動の体系的解明が必要となってきた。従ってAs-grown結晶の評価と成長へのフィードバックは主にプロジェクトの初期に行われた。プロジェクトの後半は熱処理工程での結晶品質変化を研究対象とし特に酸化物析出物の発生と成長機構について体系的に研究し、欠陥の密度と大きさの酸素濃度や熱処理温度と時間に対する依存性を初めて定量的に明らかにした。この成果は、まず結晶メーカの酸素濃度の低減と結晶全体に対する精密制御を先導した。その後は今日あらゆるデバイスメーカーが行っている後述するイントリンシックゲッタリングのための欠陥制御に関する最も基本的な情報となり、その後各社でこれをもとに詳細な検討が行われた。ただし、筆者たちは欠陥を減らすために研究したのに、その後用いられたのは欠陥を制御して導入するためでもあったというのは皮肉である。(欠陥制御については「デバイス・プロセス」の書で採り上げる。)なおLSIプロジェクト終了後の1994年に、通研でgrown-inの空洞欠陥が発見され、結晶成長技術の変革の動機となった。本項目の最も他の項目と異なる点は、研究開始後丁度40年になる現在も社外において研究が続いていることである。そのため、広いスペースを割くことになるが今日までの流れを述べることにしたい。

(2) 評価技術・装置の立ち上げと初期の結晶評価‐化学エッチングとX線トポグラフィ−(スワールフリー結晶の実現)
研究の初期段階では、研究室には結晶評価の手段は汎用的な基盤技術のみで、大口径・高品質で微小な欠陥しかないSi結晶に対する高度な評価・解析装置はなかった。そのため、最初の1-2年の仕事は最新鋭機器の導入であった。直径5インチ程度の結晶のための大型X線トポグラフィー、加速電圧200kVの透過電子顕微鏡(TEM)と、走査電子顕微鏡(SEM)などで、それらは当時フィルムで撮影されていたので暗室を含めて専用の実験室に配置した。SEMは電気信号による撮像を想定していたので範疇としては電気的評価寄りである。これらは当時の結晶メーカーでは殆ど使われていなかったので先導性の発揮に役立った。この他には共通基盤技術である化学エッチングと光学顕微鏡、それにSi結晶で必須とされていた赤外吸収を主に用いた。なお、透過電子顕微鏡については材料分析関連研究室の支援を受けた。
1975年に第T期LSI研究プロジェクトが始まったころの結晶品質は、as-grownウエハでも、その頃の結晶欠陥の評価法として一般的だった化学エッチングにより表面にスワールと呼ばれる渦巻き状の欠陥分布が密に見られるレベルであった(図1a)(最初の発表と論文) [1Daido777879]。また、as-grownや熱処理後にX線トポグラフを撮影すると外周を除いて一面に歪が観察された。そこでこれらの既存技術で品質を評価し結晶成長技術へフィードバックした。観察の結果、成長軸方向では前半部ではスワールが強いが後半部になるとスワールが無くなるようであった。縦割にすると欠陥はほぼ水平に密に並び周期的に密度が変化している。欠陥が並んでいるのはその時々の固液界面に沿っているからであり、その様子から固液界面の形が分かり、成長軸方向に固液界面形状が変化していることが分かった。そして成長開始直後の固液界面が下に凸の所ではスワールが強く、成長後期で界面がほぼ平坦で外周まで含めると下に凹の所ではスワールが無くなるという対応が得られた(図1b)。そこで固液界面を成長の初期から平らにする方法を検討し、種付から径を広げる時に短期間に広げて肩を平らにする代わりに、徐々に円錐状に広げる方法にした処、界面が平らになりスワールが弱くなることを確認した(図1c)[2Inoue2003]。スワールのもう一つの原因として成長速度の微視的な変動が考えられた。固液界面の痕跡が交差していることがあり、再融解を表していると考えられる。成長変動はドーパント濃度の変動も引き起こすため、抵抗率の変動により評価することが出来る。成長中には結晶を回転するが5rpmと20rpmでは、5rpmは成長変動が大きくスワールが顕著で、20rpmでは成長変動が少なくスワールが無くなることが分かった(図1d)。さらに後述するように酸素濃度が高いと欠陥が多くなる傾向があるため、酸素濃度を低減するとスワール対策として効果がある(図1e)。これら3つの方法を総合して第T期 ('75-'77)の終る77年に、目標としていた「高品質」(2μmパターンルールで問題となる欠陥の少ない)に対応するスワールフリー結晶を実現し77年11月の第一回LSIシンポジウムにおいて報告した。以上のようにこの段階では結晶評価に基づくスワールの発生源の考察がスワールフリー化成長技術を牽引した。as-grownでスワールが見えなくなってからも化学エッチングとX線トポグラフィの方法は熱処理後の品質評価法として用いられたが、比重は低下した。

(c) 左:通常の平らな肩部、界面形状は下に凸で、下の方までスワール
右:肩部を円錐形にし界面を平らにして欠陥を低減[2Inoue03].

(3) 赤外吸収による酸素濃度と酸素の析出量の評価
as-grownで見られるスワールなどの欠陥の原因が酸素の析出であることが次第に明らかになって、酸素の析出量の測定が重要になった。赤外吸収では酸素の析出は格子間酸素吸収ピークの周りに波数幅の広い吸収を生じる。そこで格子間酸素吸収や酸素析出吸収の分布をas-grown並びに熱処理後に測定し、スワールパターンとの対応を調べた。析出の多い所では析出していない場所に比べて、格子間酸素による吸収が減少し析出吸収ピークが見られる。図2に熱処理後の分布を示すように、全酸素濃度(1350℃で熱処理して析出物を溶解させて測定)は成長初期から終期にかけてわずかに減少する。これに対して析出酸素濃度はas-grownのスワールパターンの強弱に対応して前半部は多く後半部は少ない。また径方向でもスワールパターンに対応して前半部は外周以外の全体に多いが後半部は外周のやや内側だけに多い。なお成長軸方向や径方向の酸素濃度の微細な変動もフィラメント状の光源と試料の移動装置により分解能約1mmで測定し、わずかに変動があることが確かめられた(最初の学術誌原著論文)。 [3Inoue1978]。これらの結果は上記のようにas-grownの欠陥の低減に活用され、スワールフリー結晶が実現された。
第U期('78-'80)は、as-grownではスワールが無く析出が少なくなったため、デバイス製造プロセスの高温酸化や熱処理により発生する二次欠陥である酸化誘起積層欠陥(Oxidation-induced Stacking Fault、OSF)や転位ループ等が品質の主問題となった。それらは電気的特性不良のリーク電流の原因となるからである。この欠陥も次第に過飽和酸素の析出が原因であることが明らかになって、酸素濃度の低減にさらに努力することにな

った。そのため酸素濃度そのものの評価に重点が移り、赤外吸収法による酸素濃度測定が重要な位置を占めるようになった。酸素濃度測定の結果を製造技術へフィードバックして、磁界引加による極低濃度および極高濃度の酸素結晶育成技術の開発に役立てた。社外では赤外吸収はシリコン産業の生産現場においても生産管理技術として重視されるようになった。このため、酸素・炭素濃度さらにずっと後の窒素濃度の測定については電子協の標準化活動に参加し国際標準化に貢献した(コラム1参照)。

(4) 透過電子顕微鏡による微小欠陥の評価と解析
微小欠陥は年と共に密度が低くなると共に小さくなった。このため化学エッチングでは検出できないものも出てきた。また化学エッチングは欠陥そのものでなく欠陥の周りの歪を検出しているため欠陥の実体は分からないと同時に破壊検査である。X線トポグラフィも分解能においては同様に不十分である。また、初期の欠陥密度が高かったころや熱処理により欠陥を導入した場合には像が重なり合って密度の数え落しが生ずる。そのため、透過電子顕微鏡による「欠陥の大きさ、密度の測定や欠陥構造の解析評価」を行い結晶成長グループにフィードバックした。これは当時としては新しい方法であった。as-grownでスワール欠陥がある時期には、TEMによるその実体は完全転位ループと酸化物析出物であり(図3a)、化学エッチングではそれぞれシャローピット(浅い穴)とヒロック(丘)になることを明らかにした(図3b)[1Daido]。
第U期は、as-grownではスワールが無くなったため、熱処理後に二次欠陥を解析した。その結果、スワールフリー結晶の熱処理後の欠陥の種類はスワール結晶のas-grownの欠陥

と同じ物が多く、二次欠陥である積層欠陥の中心に酸化物析出物があり、酸化物析出物から二次欠陥として直線状にプリズマティック転位ループが並んでいることを明らかにした(図4)。ただしその密度が低く大きさが大きい。欠陥の発生源は酸素の析出であり、酸素濃度はそれほど低くないため、密度が低いだけ1個の欠陥当りの酸素や格子間シリコン原子の凝集量がずっと多くなるためと考えられる[1Daido79]。この頃内外で最も問題だったのは、デバイス製造中の熱酸化工程で生じる二次欠陥の酸化誘起積層欠陥であった。これに関して通研ではその発生核は次項の巨大析出物であることを明らかにすると共に、その析出物からの発生過程を透過電子顕微鏡によるその場観察で初めて図5(a)のように明らかにした[4Wada79]。その後OSFの類似研究は90年代初めまで盛んに外部で行われている。これらの結果は図5(b)に示すように、プロセス後の欠陥を第U期 ('78-'80)の目標である「無欠陥」にふさわしい「検出限界以下」に、1980年12月の第2回LSIシンポジウムの時点で達成することに活かされた [5Inoue80,81]。

(a)完全転位ループ(L)と酸化物析出物(OP)、(b)エッチング像、左: 転位ループのピット、右:酸化物析出物のヒロック
図3 スワール欠陥の電子顕微鏡像[1Daido]

(a)巨大な積層欠陥、(b)酸化物析出物から列状に並ぶプリズマティック転位ループ
図4 スワールフリー結晶の酸化後の欠陥の電子顕微鏡像[1Daido]

左:図5(a) 熱処理による酸化物析出物からの積層欠陥の発生機構[4Wada79]
右:図5(b) 微小欠陥密度の酸素濃度依存性、第T期計画の目標達成[5井上8081]


一方電子顕微鏡の真価は、擬似その場観察による欠陥の発生や成長機構の解析で発揮された。これにより図6に示すように低温−高温2段階処理を確立し、臨界半径の概念を適用し、酸素の過飽和度が大きくなる低温で核形成が桁違いに多くなること、低温熱処理時間に比例して析出物密度が増えること、酸素濃度が10%増えると析出物の密度が1桁増えることなど、過飽和度や過冷却度の大きい場合に起きる均一核形成の現象論で説明でき、密度を定量的に表せること、析出物の形はそれまで報告されていた8面体でなく正方形板状で拡散律速成長することを明らかにした(最初の総合報告)[6井上79]。その結果はシリコンデバイス産業や結晶産業において、結晶成長後の熱処理や加工プロセスなどの工程の制御に利用された。(これらの詳しい内容は「デバイス・プロセス」の書で述べる。)表2.5.4.1にSiの結晶欠陥の低減の歴史をまとめる。第V期('81-'84)では、前半は熱処理における欠陥の発生・成長機構の解析が主体で、83年に厚木に移転してからの後半にはSiの評価の研究者は化合物半導体結晶の評価や薄膜成長に主担当テーマが変わったため組織的な研究は行われなくなった。

図6 酸化物析出物の発生と成長の定量的研究[6井上79]、左上:析出物密度の低温熱処理時間に対する依存性、右上:析出物密度の低温熱処理温度と酸素濃度に対する指数関数的依存性、左下左:析出物の過飽和度に依る生長と収縮の臨界半径の概念図、下右:正方形板状析出物の拡散律速成長

      表2.5.3.1 Siの結晶欠陥低減の経過 [5井上8081]

(5)grow-inの微小析出物と巨大析出物の提起












2020/03/04開始