シリコン結晶研究のルネサンス

酸素

初めに
シリコン結晶中の酸素は最も重要な不純物です。
大半のデバイスの基板となるCZ結晶には、石英るつぼから溶け込みます。濃度は1017/p3大です。
るつぼを使わないFZ結晶でも10016/p3近く含まれていることが多いです。
過飽和なため、as-grownで析出して二次欠陥を発生しています。
析出物は周囲の歪などに重金属不純物を集めるため多くのデバイスでゲッタリングに利用されています。

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6 空孔による析出の促進と異常析出現象

1979 Hu

5 析出の制御とゲッタリング

1977 Tan

析出物からの積層欠陥の発生


4 as-grown結晶中の巨大析出物と微小析出物



3 酸化物析出物の成長


2 酸素の析出現象、金属相変態論による現象論的解析


1 酸素の局在振動赤外吸収

シリコン結晶の研究の草創期に、酸素の局在振動による赤外吸収が明らかにされ、その後の軽元素不純物の研究の基礎となりました。
Infrared Absorption of Oxygen in Silicon
H. J. HRosrowsKI AND R. H. KAIsER
Physical review, 107(4), (1957)



1979年応用物理、48(12)、1135-

引上げ法シリコン中の酸素の析出機構

井上直久*・大坂次郎*・和田一実**
日本電信電話公社武蔵野電気通信研究所 〓180 武蔵野市緑町3-9-11

Oxygen precipitation in Czochralski (CZ) grown silicon crystal was quantitatively investigated using transmission electron microscopy (TEM) and etching technique.Oxide precipitate growth was found to be limited by interstitial oxygen diffusion, and to proceed two dimensional growth between 750.. and 1050...Nucleation rate dependence on annealing temperature, annealing time and oxygen content was determined. The result was analyzed using classical nucleation theory. It is clarified that homogeneous nucleation takes place under high supersaturation of oxygen.Existence of microprecipitates in the as-grown crystal was confirmed and their size and density were determined. Their formation mechanism and role in device characteristic degradationare discussed. Dislocation loops are nucleated at these microprecipitates

1.序
現在LSIの基板として用いられているシリコンウェハの大部分は,石英ルッボ内のシリコン融液から回転引上げ法(Czochralski法,略してCZ法)により育成された結晶を用いており,このため約1018atoms/cm3 (20ppm)の酸素不純物を含んでいる.いっぽう,シリコン中の酸素の溶解度はたとえば素子製造時に行なわれる熱酸化の代表的温度1000℃で約3×1017atoms/cm3であり1), LSI製造のための熱処理では常に過飽和であるため,シリコンウェハ内では酸素が必らず析出している.
シリコン中では酸素の析出により一般にSiOx (x=1〜2)の組成をもったシリコン酸化物の析出物が形成される2).その際生じる体積膨張により,シリコン原子が放
出され格子間原子になる3,4).格子間シリコン原子の溶解度は低いため,酸化物析出物を核として析出し各種の転位ループを発生・成長させる4).これらの転位ループが素子の活性領域にあると特性を劣化させる事はよく知られている5,6).言いかえれば,酸素の析出がおきなければ転位ループも発生せず,バルクの結晶性(プロセス欠陥を除く)に起因した素子特性の劣化もなくなる.この他シリコン酸化物の析出物は,ウェハの反りの原因となり7),またそれ自体電気的に活性である8,9)事も報告されている.また酸化物析出による硬化現象10)とか,素子の表面から少し離れた所に析出物があるとゲッタリング作用により特性がよくなるという話もある11,12).
このようにシリコン中の酸素の析出は素子特性に関連ずるウェハの結晶性を最も直接的に支配する要因であ
る.析出機構の研究により析出物の低減法または制御法を明らかにする事はウェハの品質向上にとって不可欠の課題であるが,析出物の発生・成長の機構はほとんど分っていない.
そこで我々は透過型電子顕微鏡(TEM),赤外吸収法,エッチング法と熱処理を組合わせて,析出現象の定量的な解析を行なった.すなわち,
1)析出物の成長速度をTEMにより直接測定した.
2)析出物の発生速度をエッチング, TEMにより測定した.そしてこれらの結果を析出速度論,古典的核形成理論により解析し,
3)析出物の成長が格子間酸素の拡散により律速されている事.
4)酸素の過飽和度の大きくなる低温熱処理では均一核形成により析出物が発生する事.を明らかにした.
さらにこれらの結果を利用して
5) as-grown結晶中には結晶育成後の冷却時に均一および不均一核形成し,成長した析出物が高密度で含まれている事.
6)それらの析出物は素子製造工程で転位ループを発生する事.
を実証した.
本論文ではこれらの結果について報告する.
2.従来の研究*
CZシリコン中の酸素についてはじめて系統的に調べたのはBell研究所のKaiserらである.彼らは波長9μmにおける赤外吸収量により格子間酸素を分析する方法を確立すると共に,育成条件による酸素濃度の変化15)や熱処理による析出もいちはやく報告している16).また格子間酸素の位置を決定し17),溶解度も求めた1).赤外吸収法は簡便,非破壊,定量性,析出状態分析可能2,18)などの優れた特長をもち,析出現象の解析に盛んに用いられている.熱処理温度による析出物の組成・構造の変化をTable 1に示す.低温ではSiO, SiO2のいずれも非晶質で,その上では面心立方晶でシリコン原子の配列がシリコン結晶と同じダイヤモンド構造であるクリストバライト,さらに高温では非晶質になるとされている.た
だし赤外吸収法はウェハ全体についての平均測定であるため,析出物の形状,大きさや密度を知る事ができない.X線トポグラフィーやエッチング法は微小な欠陥の密度を知る事ができ,微小欠陥の成因を推測した例もある19)が,酸化物析出物だけを調べているという保証がない.
析出物の微視的構造の直接解析にはTEMがもっとも適している.電子線回折を併用してクリストバライトの微結晶粒や非晶質酸化物の存在が確認されている20,21).また最近では透過電子のエネルギー分析により析出物内に酸素が含まれている事が直接確かめられた22).大きく成長したものについては形態学的研究も盛んで,比較的低温測ではシリコンの{100}面を板面とし〈110〉方向を周囲とするクリストバライトとみられる正方形板状析出物2,20.23,24),高側では非晶質とみられる8つの{111}面により囲まれた正八面体25)が一般的とみられている(Table 1).なお前者についてはdendrite状の成長モデルが提案されている26).しかし,析出物の構造,形は報告者や熱処理条件によりまちまちであり,食い違いもみられる.

* 1977年に米国のThe Electrochemical Society主催で3rd Silicon Symposiumが開催され, "Oxygen in Silicon"のセッションなどで酸素の析出について約10件の発表があった.これらは"Semiconductor Silicon 1977"に収められている.このうちPatel13)とHelmreich14)の論文はそれまでの研究についてのreviewである.

CZ結晶を熱処理し,ウェハをエッチングすると,渦状の「スワール」が現われる事がある. Rav20)は高温で長時間熱処理した試料にサブミクロンの酸化物析出物が高密度に発生している事を明らかにした.また安阿弥ら19)はas-grown結晶中に潜在欠陥があると考えた.我々は結晶内の格子間酸素吸収の減少(析出による)の分布がエッチピットの分布とよく対応する事を明らかにした27). (Fig. 1).一般に結晶の成長初期(top側)では酸素濃度が高く欠陥が多い.析出現象を含む酸素のふるまいに炭素が関与しているという説がある14).またas-grown結晶中や熱処理後のウェハに生ずるドナーは古くからSiO4のようなクラスターであると考えられている28).析出物からの転位ループの発生については別の解説29)を参照していただきたい.さて,これらの解析はあるものの,析出物の発生・成長機構を検討した例は少ない.発生についてはvacancyなど点欠陥の濃度不均一に起因した不均一核形成と考える説20),それとは反対の均一核形成説30),両者の複合とする説31)がある.成長については酸素の析出に関連した積層欠陥の成長の解析から,析出に伴なって放出されるシリコンの拡散に律速されているというモデルが提案された32).しかしながらこれらは未だいずれも基礎データに乏しく,さらに検討が必要である.
3.酸化物析出物の成長機構33)
3.1目的および実験法*,**
析出物の大きさは,転位ループの不均一発生核としての強さを支配しており,大きいものからほど発生しやすい.また後述するas-grown結晶中の析出物の発生現象
の解析のためには成長機構を把握しておく必要がある.そこで成長速度の決定要因を調べた(今回は結晶学的な成長機構の解析は行なっていない).
as-grownのウェハを熱処理すると, as-grown状態ですでに含まれていた微小な核および熱処理により発生した核から析出物が成長する.その析出物の大きさをTEMにより測定し,熱処理温度・時間に対する依存性を調べた.
3.2結果
3.2.1観察例
大きさ100A以上,密度約107/cm3以上の析出物はTEMで観察する事ができる. 850℃処理での例をFig. 2に示す,一般にはシリコンの〈100〉方向に沿った線状像であるが,試料を傾斜すると試料面に垂直な板状析出物である事が分る(Fig. 2 (d)).板の周囲は〈110〉方向であり,基本形は正方形である(Fig. 2 (b))が,角がとれたり,二つまたは三つの板が直交したりしているものも多い(Fig. 2 (a)).この形状,およびまれに得られる回折斑点は,報告にあるクリストバライトのもの2,20)と一致するので,この析出物の構造はクリストバライトと

* 本論文の実験に用いた結晶は特に断わらぬかぎりas-grownではスワールフリーで赤外吸収法では酸素の析出は検出されない.また炭素濃度は2×1016atoms/cm3以下である.
** 格子間酸素濃度,置換型炭素濃度は回折格子型の複光束赤外分光光度計(日立345型)により測定した.不純物濃度が検出感度以下のFZ結晶を参照試料とする補償法により,酸素濃度は吸収ピークの透過率からバックグラウンドおよび多重反射補正を行ない34)吸収係数α(cm-1)を求めα×3×1017atoms/cm3として算出した27).炭素濃度は吸光度から吸収

考えられる. 750℃, 1050℃でも形状は同じであるが回折斑点は得られなかった.(正八面体が観察されないのは温度が低いためであろう.)このように形状が温度によらぬため,成長速度の温度依存性を論じる事ができる.
3.2.2厚さ
ブラッグ条件から外れたweak beam条件での析出物像の幅はその厚みを与えるとされている36). Fig. 2 (a)はweak beam像でその幅は40A前後である,他の熱処理時間でも同様の厚さであった.また750℃, 1050℃でも厚さは同じく約40Aであり,非常に大きく1μm以上に成長したものでも厚さはせいぜい60Aである.これらの事から観察可能な大きさ100A以上では,この板状酸化物は板面方向にのみ成長する,いわゆる二次元成長をしているとみなす事ができる.
3.2.3辺長
二次光成長をしているので,析出物の体積を表わすには板の辺の長さだけに着目すればよい.そこで線状像の長さの1/2,すなわち板の対角線の長さの1/2で大きさを代表させる事にする.一本のインゴットのほぼ同一の位置から切りだしたウェハ(Oi=11×1017)を用い,熱処理温度750℃, 850℃, 1050℃で,大きさ100A以上の場合について,熱処理時間と大きさの関係を調べた. Fig. 3に結果を示す.各測定点につき約10個の観察例の測定値のぱらつきは小さく.1)いずれの温度でも長さはL∝t3/4であり,2)高温ほど速く大きくなる.この二つの結果は我々が先に明らかにした積層欠陥の成長の結果4)と一致している. Fig. 4にそれを示す.
3.3解析
バルク積層欠陥の熱処理による成長において直径Lが,格子間シリコンの拡散係数Dと熱処理時間tにより,L∝(Dt)3/4 (1)と表わされる事は,拡散距離√Dtの半径の球内の格子間シリコン原子(数∝(√Dt)3)が求心拡散し,析出して
二次元成長する事によって説明できた4).長時間側で成長が鈍り一定値に近づくのは,酸素の析出により放出された格子間シリコンがすべて消費されてしまったためである事も明らかとなった.これと同じく析出速度論37)を用いて定量的解析を行なってみよう.拡散律速により球状析出物が成長する時,析出可能な原子数C=CI-CEに対する析出原子数Cpの割合yは析出分率とよばれ次式で与えられる.
(2)
ここでCIは初期格子間酸素濃度, CEは溶解度, CSは析出物内の酸素濃度38) (4.2×1022atom/cm3), Nは単位体積中の析出物の数, Dは格子間酸素の拡散係数である.いっぽう,析出分率は析出物の密度Nと体積Vを用いてyots=VN(CS-CE)/(CI-CE) (3)と与えられる.析出物が格子間酸素の拡散により律速されて成長していれば, NとVの測定から求めたyobsとytnとは一致するはずである.ここで今の場合析出物が球状でなく板状をしているという問題があるが,拡散場の拡がりに比べて析出物が小さい(格子間酸素濃度に比べて析出物中の酸素濃度は数桁高く,したがって濃縮度が高い)ために,析出物のごく近くを除けば球状拡散場が存在するとみなせるので(2)式を用いても支障はない.体積Vは板の厚さをdとすればV=2L2d (4)で与えられる*, (2)式と(3)式を等置し, Vに(4)式を代入すると

* 交叉した析出物については,それを体積の等しい一枚の析出物とみなして実測値の√2倍(2枚),

となる.これを(9)式に代入すると臨界核の密度はΔHvとσのみを未知数として
(11)
で与えられる.(d)核形成速度半径rcのエンブリオの表面に酸素原子が1個付着すると安定化する.核形成とはこのような過程であると考えられている.単位時間,エンブリオの単位表面積あたりの酸素原子の付着数ωはω=ns*・ν・p・α・exp(-UI/kT) (12)で与えられる.ここでns*は臨界寸法のエンブリオの表面に相対している格子間酸素原子数, νはその振動数,指数項は振動において隣りあう格子間サイトの中間のエネルギーの山UIを越える確率, pは界面方向への振動の割合, αはその時に原子が付着する確率である, ns*はエンブリオのまわりの殼の体積と原子濃度の積でありns*=4πrc2an1, (13)ここでaは格子間原子の入りうるサイト間の距離である.ジャンプ現象は拡散の素過程であり,拡散係数DはD=p・a2・ν・exp(-UI/kT) (14)で与えられる.有限時間の熱処理では, (11)式で与えられる平衡分布は実現されず,定常密度nc´はZeldovich因子Zだけ少く,nc´=nc・Zである.以上を用いると
(15)

・大坂・和田) 1131 (7)
Fig. 5 Free energy for embryo formation, .D: surface energy (+), .¢Gv: volume energy (-), rx: critical radius (about 10A).
となる.これを(9)式に代入すると臨界核の密度はΔHvとσのみを未知数として
(11)
で与えられる.(d)核形成速度半径rcのエンブリオの表面に酸素原子が1個付着すると安定化する.核形成とはこのような過程であると考えられている.単位時間,エンブリオの単位表面積あたりの酸素原子の付着数ωはω=ns*・ν・p・α・exp(-UI/kT) (12)で与えられる.ここでns*は臨界寸法のエンブリオの表面に相対している格子間酸素原子数, νはその振動数,指数項は振動において隣りあう格子間サイトの中間のエネルギーの山UIを越える確率, pは界面方向への振動の割合, αはその時に原子が付着する確率である, ns*はエンブリオのまわりの殼の体積と原子濃度の積でありns*=4πrc2an1, (13)ここでaは格子間原子の入りうるサイト間の距離である.ジャンプ現象は拡散の素過程であり,拡散係数DはD=p・a2・ν・exp(-UI/kT) (14)で与えられる.有限時間の熱処理では, (11)式で与えられる平衡分布は実現されず,定常密度nc´はZeldovich因子Zだけ少く,nc´=nc・Zである.以上を用いると
(15)
となる.不均一核形成の場合には,レンズ状エンブリオの接触角θを導入してΔGのかわりに
(16)
を用いれば良い. θ=0°(ぬれが完全)ではΔG´=0となり飽和温度で不均一核形成がおきる. θ=180°に近づくにつれ均一核形成に近づくことを表わす.4.3実験熱処理により析出物を発生させ,そのまま観察可能な大きさにまで成長させてから,表面層を約100μm除いた後,エッチングまたはTEMにより密度を数えた*.その際以下の問題があるので,次のようにして解決した.1) as-grown結晶中にすでに存在する析出物と熱処理により発生した析出物の区別as-grown結晶中には後で述べるように微小な析出物が含まれている.熱処理においてはそのうち臨界半径以
上のものが時刻0から成長を始め,大きいものから順次観察可能な大きさとなる.そして最小のもの(熱処理開始時に臨界半径に等しかったもの)が観察可能となった後は熱処理時間を増加しても密度は一定である.これに対して核形成は一定速度で連続的におきるから,新たに核形成し観察可能となった析出物の密度がas-grownのそれを越えてからは,析出物密度は一定速度で増大するはずであり,その速度が核形成速度に他ならない.2)析出物の成長速度が遅く観察できない場合低温での核形成速度を求めようとしても,発生した析出物の成長速度が遅く検出できないことがある.そういう場合には核形成のための熱処理を行なった後,核形成のおきない高温で改あて熱処理し(2 step熱処理),発生析出物を大きくして観察した.この場合1st処理の終り近くで発生した析出物は2nd処理の臨界半径に達せず数え落とされる事になるが, 1st処理時間がごく短い場合を除いては大部分が検出され問題はない.4.4結果4.4.1 850℃Fig. 6は850℃熱処理における析出物によるエッチ丘の熱処理時間に対する増加の様子を示す写真である.熱処理時間2時間からエッチ丘が現われ始め, 5〜50時間にかけては密度増加が明らかである.
* 欠陥密度は全て体積密度である.エッチングではライト液を用い析出物の大きさより十分深くエッチ し,エッチ深さを用いて体積密度に換算した. TEM



1980年応用物理、49(1)、902-

引上げシリコン結晶の熱誘起微小欠陥に対する炭素の影響

岸野正剛・松下嘉明・金森克・飯塚隆
超LSI技術研究組合共同研究所
1. はじめにシリコン結晶は無転位のきわめて良質な単結晶である.しかし,これに熱処理を加えるとさまざまな微小欠陥が発生する,LSI(大規模集積回路)等のシリコン素子はこの結晶から切り出したウエーハを用いて作られるが,この素子作成プロセスでは必ず熱処理を伴う.したがって,この熱誘起徽小欠陥の問題は工業的に非常に重要である.また,物理的にも種々の興味深い問題を含んでいる.まず,ウエーハの表面には酸化工程で積層欠陥等の微小な欠陥が発生する.また,バルク(ウエーハの内部)には酸化工程に限らず比較的高温の熱工程で微小欠陥が発生する.表面の汚染・歪等に基づく表面の積層欠陥については詳しい検討がなされ,最近では問題が少なくなってきている.これについては,すでに報告されている解説1)を参照されたい,しかし,バルクの欠陥に起因する表面の積層欠陥については十分明らかにされているとはいえない.バルクの微小欠陥の問題も浮遊帯域(FZ)結晶のスワ-ル欠陥2,3)の問題以来検討されて久しい.これについても,いくつかの解説4,57がある,しかし,問題が解決しているわけではない.引上げ(CZ)結晶の場合,石英ルツボを使って結晶を育成するために酸素が混入すること,また,カーボンヒータ等の炭素治具が結晶育成に使われるために,炭素も結晶内に混入する.しかもこれらの不純物は結晶育成時のきわめて高温において結晶に取り込まれるので,育成した結晶にはこれらの不純物が過飽和な濃度で存在することになる(酸素は約1×1018cm-3,炭素は約1×1017cm-3を最大とし,これ以下),これらの残留不純物の存在は欠陥の発生を非常に複雑にしている.しかも,この酸素の存在はウエーハの熱誘起そりを抑制している6,7)ので,酸素の混入を阻止することで微小欠陥の問題を解決することは上策とはいえない.この点には,とくに注意を払うべきである,
さて,CZ結晶の熱誘起欠陥は基本的には過剰酸素の析出の問題である4,5).熱処理によって発生する微小な転位ループや積層欠陥も酸素の析出物によって誘発される.したがって,酸素の析出物が熱処理によっていかに発生するかを明らかにすれば,問題はほぼ解決すると思われる.シリコン結晶中の酸素の析出は酸素の均一核発生に基つく現象であって,酸素が過飽和に存在する限りその析出は避げられないという説がある8〜10).しかし,いろいろなウエーハを調べてみると,酸素濃度が非常に高く(〜1×1018cm-3)ても,熱処理による酸素の析出が起こりにくい場合もある.このことは,シリコン結晶の検査・研究に携わっておられる方なら,お心当たりがあると思われる.われわれはこの点に着目し,もう一方の残留不純物である炭素の熱誘起欠陥に及ぼす影響を調べた.その結果,後に述べるように,炭素原子が酸素析出物の核になっている可能性が高いこと,および,析出物の元になる潜在欠陥が育成したままの状態で結晶内に存在しているらしいことなどを明らかにした。2. 実験方法2.1 試料の選定CZ結晶インゴットから切り出した76mm径,400μm厚さの(100)ウエーハを用いた.これらのウエーハはtロン・ドープのp型(1〜2Ωcm)のものが多いが,リン・ドープの獄型のウエーハも用いた.これらは全てシリコン・メーカーから半導体プロセス用の仕用で購入した普通のウエーハである、しかし,ここで強調しておきたいことは,国内外の多数のメーカー(国内5社,海外3社)からウエーハを購入し,各メ-カーのウェーハの中から各試料を抽出したことである.したがって,ここで得られた結果は特定のウエーハに固有のものではなく,どのメーカーのウエーハにも適用できる一般性のある結果であると,われわれは信じている.また,炭素の影響を調べるために,Table1に示す

厚)を出発材料とし,Table2にその工程を示すモデル実験11Jも行なった.2.2 試料の熱処理試料の熱処理は全て乾燥酸素雰囲気で行なった.熱処理はTable2に示す1300℃における酸素拡散等の処理のほか,次のものを行なった,すなわち,650℃,800℃における64,または256時間の低温熱処理,1050℃における64時間の高温熱処理,および,上述の800℃熱処理の前に1050℃,1時間の高温前熱処理を加えた2段階熱処理等を行なった,これらの熱処理では,後の測定結果にウエーハ間のバラツキの影響ができるだけ入らないようにするために,とくに注意を払った.ことに,2段階熱処理の場合には,各ウエーハ(異なるメ-カー製のものから抽出)を4分割し次のように熱処理を行なった.すなわち,4分割した1枚目のウエーハは熱処理しないでそのまま残し,2枚目のウエーハには前熱処理のみ,3枚目のウエーハには後熱処理のみ,そして4枚目のウェーバのみに2段階熱処理を施した.この処理は,ウエーハ間に結晶品質のバラツキが存在することを考えると,有効な測定結果を得るためには非常に重要なことである,1300℃の熱処理はSiC製の炉で行なったが,その他の熱処理は全て普通の開管式の炉で行なった.熱処理前後のウエーハの炉内への差し入れ,引き出し速度

は全て0.16cms-1である.2.3 残留不純物の測定CZ結晶に残留する酸素・炭素不純物の濃度はフーリエ変換方式の分光器(JEOL JIR-40)を用いた赤外吸収法で測定した,酸素,炭素濃度はそれぞれ格子間酸素による1107cm-112)および置換型炭素による607cm-113)の吸収係数(α)に次に示す係数を乗じて求めた.〔Oi〕=2.73×1017×αcm-3, (1)〔Cs〕=1.10×1017×αcm-3. (2)これらの不純物濃度の測定はas-grown状態および各熱処理の前に行なうとともに,それぞれの熱処理の後に再び行なった.2.4 欠陥の観察欠陥の観察はX線回折法,エッチングー光学顕微鏡観察法,および透過電子顕微鏡観察法(TEM)で行なった.X線法ではAgKα1を用いた(444)非対称回折による透過回折強度を測定した.このX線強度はas-grownウエーハではウエーハ間およびメ-カー間で差がない.そこで,熱処理後のX線強度はas-grownウエーハからのX線強度で規格化した.欠陥密度の測定には(110)劈開面を用いるエッチング法を用いた(ごく微小な高密度の欠陥はTEMによる).エッチング法ではダッシュ液を用い30分間腐食した後,ノマルスキー干渉顕微鏡で欠陥を観察した.欠陥の詳細はweakbeam法14)を用いたTEMを使って調べた.この方法により,われわれは50Å程度の小さいサイズの微小欠陥まで検出することができた.3. 結果と考察3.1 熱誘起欠陥の正体CZ結晶に比較的長時間の熱処理を加えると,微小な析出物,転位,積層欠陥等の微小欠陥が発生する.高温熱処理の場合に誘起される欠陥については,今までにすでに多くの報告5,15〜18)があるので,ここでは代表例として,1050℃,64時間熱処理した後に現われる欠陥のTEM
Fig.1 TEM micrograph of punching out dislocations induced by a heat treatment at 1050.. for 64h.

像を示すにとどめる(Fig.1).Fig.1には酸素の析出物とこれによって誘発されるパンチング.アウト転位がみられる.このときの欠陥密度は高い場合でもせいぜい109Cm-3である.ところが,低温で長時間の熱処理を行なうと.発生する微小欠陥の密度は桁違いに高くなる.代表例として,800℃,64時間熱処理した後のTEM写真をFig.2に示した.Fig.2(a),(b)および(c)にはそれぞれ結晶中の炭素濃度が高い場合(1017cm-3以上),比較的高い場合(1016〜1017cm-3以上),および低い場合(2×1O16cm-3以下)の結果を示した.(a)の場合にはサイズが小さくて高密度(〜5×1014cm-3)の析出物とサイズの大きい転位対(細長いループ,密度〜5×1010cm-3).(b)の場合には比較的大きい析出物(密度〜2×1012cm-3)のみ,(c)の場合には低密度(〜2×1011cm-3)の大きい析出物のみが観察される.われわれは(a),(b),(C)に示したウエーハをそれぞれタイプ1,III,IIのウエーハと呼んでいる.高密度の析出物が発生したときにのみ転位対が誘起されているが,これは析出物の発生に伴って余剰の格子間シリコンが誘発されるからである19).この事情はウエーハの酸化処理で酸化膜一結晶の界面近傍に余剰の格子間シリコンが発生して積層欠陥が成長する20)のと同じである.発生する析出物の密度が減少すると,Fig.2(b),(c)に示すように,析出物が成長するのみで転位対は発生しない.熱処理温度を下げて650℃(処理は256時間)にすると,発生する微小欠陥の密度はさらに高くなる.この場合に炭素濃度の高いウエーハでは発生する析出物の密度があまりに高くなるので,一つひとつの析出物のサイズはきわめて小さいと予想され(〜50Å以下),weakbeam法を使ったTEMでもこれらを検出することはできなかったが,転位対は検出されその密度は109cm-3以上であった,しかし,炭素濃度の低いウエーハでは発生する析出物の密度が比較的小さいために,サイズが拡

大し,析出物(〜1×1015cm-3)も転位対(〓109cm-3)もともに検出された.しかも,熱処理によってこれらの欠陥が成長するにつれて格子間酸素の量は減少した.ここで注目すべきことは,熱処理時間が延びても密度はほとんど変化しなかったことである,すなわち,析出物の成長と格子間酸素の減少の間には相関関係がある.3.2 FZ結晶を用いたモデル実験われわれは多数のメーカ-からの,それぞれ異なったインゴットから切り出したウエーハの熱誘起欠陥を調べることにより,微小欠陥発生の様子が結晶中の炭素の存在と関係があることを予想した21).このことをさらに明らかにするために,炭素濃度の異なるウェーバ(Table1参照)を用いて次のようなモデル実験を行なった11)・すなわち,Table2に示すように,まず,これらのウエーハに1300℃で酸素拡散を行なうことにより,ウエーハ内(表面近傍)に酸素を含ませた(CZ化).次に,これらに800℃において1時間から64時間までの等温前熱処理を加えることにより,熱履歴を加えた,そして最後に,高温(1050℃)熱処理を加えることにより,熱誘起欠陥を発生させこれらを観察した.観察した結果はFig.3,4に示した.Fig.3には1050℃,64時間熱処理後のX線の透過回折強度の増加分を各ウエーハについて示した.Fig.3(a)には,X線強度の増加分を前熱処理(800℃)時間の関数として示している.(b)には前熱処理を行なわなかった場合の結果を,また(c)には酸素拡散も,前熱処理も行なわないで,1050℃,64時間の熱処理のみを施した場合の結果を示した.また,Fig.3(8)において記号A,B,Cで示されるウエーハの炭素濃度は,Table1に示すように,この順番に従って増大している.Fig.3から次のζとが明らかである.(i)当然のことながら結晶内に酸素が存在しなければ微小欠陥は誘起されない,(ii)結晶中の炭素濃度が低い場合にも同様に誘起されにくい,および
Fig.3 X-ray diffracted intensity increment by a heat treatment at 1050°C for 64h as a function of preannealing time at 800°C. (a) Oxygen is diffused into each sample before the heat treatment.(b) Each sample is not preannealed at 800.. after the oxygen diffusion.(c) Neither oxygen diffusion nor preannea ling are carried out.Pertinent carbon concentrations are shown in Table 1.
(iii)熱履歴が少なければ(この場合は800℃における前熱処理時間が短かければ)微小欠陥は誘起されにくい.以上の結果から,熱誘起微小欠陥の発生には酸素のほかに,炭素および熱履歴の存在が重要な役割を果たしていることが明らかである.また,この場合の酸素は拡散で結晶に含まされているために,ウエーハ内の酸素濃度は表面(および裏面)近傍のみで高く(ほぼ1×1018cm-3),中心付近ではきわめて低い.濃度分布を赤外吸収法およびドナー化処理22)後,広がり抵抗法で調べたところ,ほぼ計算濃度曲線と一致する.したがって,微小欠陥は表面近傍にのみ発生する.このことはFlig.4に示すダッシュ・エッチ後の(110)壁開面の光学顕微鏡写真から明らかである.Fig.4において,大きい白いピットが微小欠陥を示す.またSはウエーハの表面を示す.なお,薄いぼんやりした縞模様はウエーハの壁開線に基づくものである.この写真から欠陥の発生している領域は,表面からほぼ70〜90μmである.この深さは結晶中の酸素濃度が5〜6×1017cm-3の場所に相当する.したがって,1050℃,64時間の熱処理で微小欠陥が発生するためには,ほぼ5×1017cm-3以上の酸素濃度が必要であることがわかる11).なお,Fig.3(a)に示すように,炭素濃度の低いウエーハAでは熱誘起微小欠陥が発生しにくいことから,800℃近傍の熱処理においては酸素の均一核発生はほとんど起こっていない(少なくとも観察されていない)こと,この事情は1050℃熱処理においても同じであることが明らかである,3.3 2段階熱処理による微小欠陥発生の変化

Fig.4 Optical micrograph of (110) cleavage section of the wafer (B-124) after Dash etching.A two step heat treatment (800.. for 16h+ 1050.. for 64h) is added to the sample after oxygen diffusion. S shows the wafer surface.
Fig.5 Interstitial oxygen concentration as a function of annealing time at 800... D and S show results for the two step annealing (1050..+800..) and 800.. single annealing, respectively.
以上の検討から,熱誘起微小欠陥の発生に炭素が関与していることが明らかになったが,ではこれらの欠陥の核発生はいつ起こるのであろうか.核発生がウエーハの熱処理中に起こるのか,冷却時も含めて結晶育成中に起こるのかを明らかにする必要がある.そこでわれわれは,最初各ウエーハを分割し,その一片に1050℃,1時間の前熱処理を加え,続いて800℃において64時間までの熱処理を加えた後,酸素濃度および発生する欠陥を調べた.酸素濃度の測定結果の一例をFig.5に示した,Fig.5において,Dは上記の2段階熱処理を施したウエーハの場合,Sは同一ウエーハの他の分割片に800℃等温アニールのみを施したウエーハの場合の結果である.このグラフから明らかなように,1050℃の前熱処理を加えることにより酸素は析出しにくくなることがわかる.もちろん,発生する欠陥密度も酸素の減少と
Fig.6 Defect size-number distribution (model). (a) before annealing, (b) after 1050.. annealing, and (c) after 800.. annealing.
相関関係がある23).これらの結果は,同一ウエーハから得られているので,熱処理前の酸素濃度が同じでも,ウエーハの熱履歴が異なれば,熱処理による酸素の析出は全く異なることを示している.この事実は,酸素の析出が酸素の均一核発生モデルによって説明できないことはもちろんのこと,800℃熱処理によって核が発生する(炭素等を核とする不均一核発生)と考えることも困難であることを示している.われわれは上記の実験事実や,さらに熱処理温度を下げると(たとえば650℃のとき)欠陥密度が増大することなどから考えて,析出物の元になる潜在欠陥がもともとas-grownウエーハの内部に存在すると考えた23).すなわち,その分布は,Fig.6(a)に示すように,潜在欠陥のサイズが小さいほど,その密度が高くなるものであると予想される.このウエーハに1050℃の熱処理を加えると,この温度での成長のための臨界サイズ(C-S1)より大きいサイズの欠陥(X1)のみが成長し,それ以下のサイズの欠陥(Y1)は縮小し,熱処理後の分布は(b)のようになる.ところが800℃での臨界サイズは,当然のことながら,1050℃のそれより小さいので,この熱処理では多くの潜在欠陥が成長することになる(Fig.6(c)のX2).したがって,(b)に示すように1050℃の前熱処理を加えた後,800℃の熱処理を行なうと,この処理で析出する酸素の総数(発生する微小欠陥の総数も)はきわめて少なくなると予想される、以上のように考えると,Fig.5の結果を矛盾なく説明することができる.したがって,潜在欠陥の核発生は結晶の育成時に起こり,この潜在欠陥が結晶の冷却時に成長して,上記の分布を持つと考えるのが妥当であろう,そして,ウエーハ化後の熱処理では,ウエーハ中の潜在欠陥が酸素を吸収して成長していると考えられる.なお,潜在欠陥の発生・成長およびウェーハ化後の熱処理による微小欠陥の成長・収縮等についての挙動は,Follら24)がFZ結晶のスワール欠陥の発生に対して提出したモデルと類似なモデルを使って説明できることが
Fig.7 Oxygen reduction ratio by heat treatment at 650.. for 64h as a function of initial carbon concentration.
最近明らかになった23).詳しい議論は紙面の都合で割愛させていただくことにした.これについては後の機会に譲りたいと思う,3.4 低温熱処理と炭素濃度以上の検討で熱誘起欠陥の元になる潜在欠陥がas-grown結晶に存在すること,および,これらの欠陥の核としては炭素の可能性が高いことなどを明らかにしたが,Fig.3に示した炭素濃度と欠陥の関係はFZ結晶での実験で求めたという弱点がある。すなわち,"この実験結果は必ずしもCZ結晶の微小欠陥の挙動を反映していない"という批判があるであろう.そういう一面があることを,われわれも完全に否定することはできない.そこでCZ結晶を使って再度確認実験を行なった23).しかし,Fig.6に示す潜在欠陥の分布図から明らかなように.潜在欠陥の密度はサイズが小さいほど高い(指数関数的に)is)ので,高温で熱処理を行なったのでは"氷山の一角を見る"ことになる.すなわち,炭素濃度と欠陥密度の関係を調べるための熱処理は,結果が観察できる限りの低温でウエーハに施さなければ微小欠陥全体の様子を把握することは困難であると思われる.そこで,われわれは650℃,64時間の熱処理を行なって格子間酸素の挙動を調べるとともに,微小欠陥の発生の様子を調べた23).この熱処理による格子間酸素の減少率(最初の酸素量に対する減少量の割合)を,Fig.7に示すように,as-grown結晶の炭素量の関数として示した,この図で実線および破線はそれぞれn型およびP型のウエーハを示す.この図から明らかなように,熱処理による酸素の減少率は炭素の含有量と相関関係がある.炭素濃度が比較的低いとき(2×1016cm-3近傍またはそれ以下)には結果のバラツキが比較的大きいが,炭素濃度が高いときには明らかに酸素の析出量は多い.酸素の減少準の大きいウエーハでは,前にも述べたように,多数(〜1012cm-3以上)の転位対が観察される.全体に多
Fig.8 Oxygen reduction ratio by heat treatment at 650.. for 64h as a function of initial oxygen concentration.
少相関関係が乱れているのは,ウエーハの熱履歴の差(各ウェーハは切り出したインゴットが異なるため,結晶の育成条件が異なると予想される)に基づくものと思われる.ことにn型のウエーハでバラツキが大きいのは注目されるが,詳しい原因は現在検討中である23).この同じ結果(酸素の減少率)をas-grownウエーハの酸素の含有量の関数として示すとFig.8のようになる,酸素の含有量と熱処理による減少率の間には,それほど良い相関関係はみられない.すなわち,酸素濃度が高くても酸素の減少率が低いウエーハが多く存在する.なお,Fig.8において,酸素の減少率が0.5より大きいものは全て炭素の含有量が多いウエーハである.このことを考慮すると,この温度においても酸素の析出が均一核発生によって起こっている可能性はきわめて小さいことが予想される,以上の結果から,炭素を多く含むウエーハには,その温度にほぼ比例して多数の潜在欠陥がas-grown状態で存在することが予想される,しかも,650℃の熱処理に対しても高温(1050℃以下の温度)の前熱処理が次の熱処理による酸素の減少を抑制する効果があるので,この温度においても,欠陥核の発生はほとんど考えられない,すなわち,欠陥核の発生は結晶の育成時であると考えられる.この温度の熱処理においても観察される酸素析出物の発生は潜在欠陥の成長の結果であると考えて良い.4. むすびシリコンの結晶は,熱誘起微小欠陥の発生に関する限り千差万別である(最近結晶育成技術の発達のおかげで収斂する傾向にあるが).このことが欠陥の研究を非常
に難しくしている.ごく最近Huberら25)は1050℃の熱処理を行なって,炭素濃度とCZ結晶のスワ-ル欠陥の間には相関関係がないと結論している.しかし,われわれの考えでは,このような高温熱処理で両者の間に相関関係が薄いのは当然である.前にも述べたように,われわれのいう潜在欠陥の密度は小さいほど高いし,その分布の様子は結晶の育成条件によって異なるので23),高温の熱処理では微小欠陥全体のシッポ(または頭)の部分を見ているのみである(熱履歴の違いをみている).高温熱処理において両者の間に相関関係があるのは,むしろ不思議であろう.シリコン結晶の微小欠陥を調べてさまざまな結果が出るのは,"めくら"が象を"見"て,"壁のようだ","柱のようだ","……",というのと似ているように思えてならない.われわれは"めくら"にならないように,できるだけ多数のウエーハ(数百枚以上)を調べるように心掛けたが,われわれもまた,"めくら"の1人である可能性があることを否定するつもりは毛頭ない,まだまだ,シリコンの微小欠陥については不明な点が多い.今後もできるだけ"めくら"にならないように全体を見通しながら研究を進めて,一般性のある結果を出すよう心掛けたいと思う.最後に,ご討論をいただいた東理大・橋口隆吉教授,当研究所の高須新一郎主管研究員ならびに第4研究室の熱処理グループの方々に感謝の意を表したいと思う.文献1) 杉田吉充:応用物理 46 (1977) 1056.2) 阿部孝夫,丸山茂:電気化学 35 (1967) 149.3) A. J. R. de Kock: Appl. Phys. Lett. 16 (1970) 100.4) 松井純爾:応用物理 44 (1975) 1328.5) 井上直久:日本結晶学会誌 21 (1979) 11.
6) S. M. Hu: Appl. Phys. Lett. 31 (1977) 53.7) N. Yoshihiro, H. Otsuka, T. Oku and Shin. Takasu: Abstract of Fall Meeting of Electro chem. Soc., 1979 (Recent News, to be submitted).8) V. Cazcarra: Defects and Radiation Effects in Semiconductor, ed. J. H. Albany, Inst. Phys. Conf. Ser. 23 (1978) p. 303.9) P. E. Freeland, K. A. Jackson, C. W. Lowe and J. R. Patel : Appl. Phys. Lett. 30 (1977) 31.10) H. Takaoka, J. Oosaka and N. Inoue: Proc. 10th Conf. Solid State Devices, Tokyo, 1978, Jpn. J. App!. Phys. 18 (1979) Suppl. 18-1, p. 179.11) S. Kishino, Y. Matsushita and M. Kanamori: Appl. Phys. Lett. 35 (1979) 213.12) W. J. Patrick: Si Device Processing, ed. C. P. Marsden, NBS Special Publication 337 (1970) p. 442.
コメント
試料は市販品で素性が分からない
統計的な相関関係に過ぎない
高濃度炭素を問題にしているが、デバイスグレードのウエハはもっと低濃度で、当てはまらない
その後のLSI時代を通じて、炭素はNDであればよく問題となることは無かった。
炭素が核だとすると、その後の酸素析出の制御に炭素が使われても良さそうだがそのような試みは知られていない.
as−grownに微小酸化物析出物が存在することは1979年の上記論文ですでに周知されている。






1978
Inhomogeneous Oxygen Precipitation and Stacking Fault Formation in Czochralski Silicon
N. Inoue and J. Osaka
Japanese J. Appl. Phys., 17-11, 2051-2052 (1978).



CZシリコン結晶の育成および評価
Czochralski Silicon Crystal Growth and Characterization
大洞勝彦、篠山誠二、井上直久
研究実用化報告、27-9、1995-2003 (1978).
あらまし
集積回路の材料として用いられている3インチCZシリコン結晶がかかえている課題の一つに,熱酸化によって発生する積層欠陥の原因となる出発結晶中の微小欠陥の低減化がある.この問題に対して,CZシリコン結晶の育成条件の検討と結晶空の結晶欠陥の実体・熱処理による挙動の電子顕微鏡観察から次の結果を得た.
 無転位結晶のエッチピット密度分布を調べ,欠陥密度と固液界面形状との間に密接な対応があることを明らかにし,固液界面形状を平坦化し,成長速度変動を抑制することにより微小欠陥を低減できることを確認した.熱酸化によって発生する積層欠陥は結晶成長時に導入される欠陥源に過飽和な酸素が作用して,シリコン酸化物の析出を生じ,析出を核として発生することを明らかにした.微小欠陥の低減にとって酸素濃度の低減が重要な因子であることを示した.