シリコン結晶研究のルネサンス
窒素
シャローサーマルドナーの局在振動赤外吸収

初めに
窒素ドープのCZシリコン結晶にはシャローサーマルドナーと呼ばれる準位が発生します。
その実体は長らく不明でしたが、Si-N-Si-O正方形を核とする構造であることが分かってきました。
発見から最近の解明までを逆順に示します。
研究を進めた方針を紹介
モデルから吸収を予想
理論計算を発見と同定に利用
濃度測定法や照射複合体の研究に現れる未知の吸収をSTDの観点で調べる
2025/10/27-

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各構造、LVM赤外吸収と、熱処理による反応の模式図



N-O-3の低温型と高温型
我々は、N−O−3の温度依存性の起源は低温のO(NO)構造と高温の(ONO)構造に起因すると考えました。
そうすると855p-1吸収は低温型のO(NO)であることが分かります。

NOn複合体の同定、
Oの付かない高温型は(NN)と同様に800℃で最大と思われるので、無窒素試料を参照試料として差吸収スペクトルを測定、水色

高温型吸収の探索
高温型は(NN)と同様に800℃で最大と思われるので、無窒素試料を参照試料として差吸収スペクトルを測定、橙色
840、862, 945p-1に弱い吸収

低温型吸収の探索
低温型は(NN)径と同様に600℃で最大と思われるので、無窒素試料を参照試料として差吸収スペクトルを測定、水色
(NN)系吸収の近くに現れると考えられるので、消去する茶色、黒矢印の(NN)径の他に赤矢印で示す736,655,973、1002、1064p-1吸収が見られる。
736p-1wp除いては、O(NO)O, O(NO)と見られる。736p-1は他に比べて巨大で幅が広いため疑問。551cm−1はNi。


2007理論研究との協力
我々の依頼に応じてJonesのグループは計算を行い、972,1002p-1吸収を(NO)O,855p-1吸収を(ONO)起源と推定しました。
O(NO)O構造や(ONO)O構造の計算はしていませんでした。855p-1吸収の温度依存性は(NN)ではなく(NN)OかO(NN)Oに近いです。

2005, 2006局在振動赤外吸収の発見と同定
2005年と2006年に我々は、972,1002,855cm−1吸収を報告しました。前2つはNNの963p-1吸収や、NNOの996p-1吸収に近い波数で、」855p-1吸収は既存のNN系吸収から離れています。972、1002p-1吸収は温度依存性がO(NN)Oに近いことからO(NO)Oと推定しました。855cm−1の構造は不明でした。
他にも多くの候補が見つかりましたが、報告しませんでした。
Infrared absorption peaks in nitrogen doped CZ silicon
N. Inoue, M. Nakatsu, H. Ono, and Y. Inoue
Materials Science and Engineering: B Volume 134, Issues 2-3, 15 October 2006, Pages 202-206)
指針
微弱なので、高感度測定
NN正方形と構造が似ているので、NN系吸収の近くに現れる
(NN)系と同様なO付着をしていると思われるので、NO吸収のやや高波数側で600℃を最大とする温度依存性の可能性
 



Local vibration modes of shallow thermal donors in nitrogen-doped CZ silicon crystals
N. Inoue, M. Nakatsu and H. Ono, Physica B 376-377 (2006) 101-104


後に
250 N-O-5は(NO)で高温型
240 N-O-3はO(NO)で低温型
と分かるのでこの温度依存性はほぼ妥当です。
N-O-3は高温型(ONO)があるが、この測定では分からない

後に
242 N-O-4, 250 N-O-5はいずれも(NO)で高温型
234 N-O-1, 238 N-O-2は (NO)O系で低温型、240 N-O-3も低温型
と分かるので電子遷移が右図のように分かれるのは妥当
  

2001N濃度測定への提案(Voronkocv)
低窒素濃度ではNの大部分が単体でshallow thermal donorになると主張
600℃熱処理後のN-O-5 (240cm-1) + N-O-3 (249cm-1)の和で窒素濃度が測れるとした。
その後の我々の研究によれば、N-O-5は(NO)、N-O-3はO(NO)であり、シャローサーマルドナーの一部に過ぎない。またそれを何倍かしても全STDとはならない。
それよりも、すでに単量体ではNiがSTDよりも多いことが分かっておりこれらの主張は間違っており、STDにより窒素の嘘を測ることはできない。



1996

NO構造モデル、ONOモデル
1996年に、1994年に窒素の主要な構造がSi-N-Si-N正方形であることを明らかにしていたエクゼター大学のJonesのグループがシャローサーマルドナーはSi-N-Si-O正方形であるとするモデルを発表しました。またそれが背中合わせにくっついているとするONO構造も提案しました。



1986, 1988電子遷移による極低温遠赤外吸収
東北大学の末沢らは、He温度での遠赤外吸収により、N-O-1からN-O-6と呼ぶ吸収を見つけ、準位を決定しました。
また前熱処理により消去してから、低温熱処理による挙動を調べました。
N-O-4,5は1000℃までの高温にも残存し、N-O-3の温度依存性には折れ曲がりがあります。

1s-2p
N-O-1233.8
N-O-2237.8
N-O-3240.4
N-O-4242.5
N-O-5249.8
N-O-6247.0


後に
242 N-O-4, 250 N-O-5はいずれも(NO)で高温型
240 N-O-3, O(NO)は低温型
と分かるので、図の温度依存性は妥当です。




シャローサーマルドナーの発見