シリコン結晶研究のルネサンス
シリコン結晶研究の主な解説のまとめ

初めに

当事者でない人の解説や、我田引水や間違ったものが多い。
さらに2010年以降も重要な研究が相次ぎ、社会でもキログラム原器を置き換えるまでになっているが、「応用物理の結晶工学関連記事」には皆無である。


Si結晶育成における点欠陥制御
宝来 正隆
応物学会2016年秋予稿13p-B8-2
過去、半世紀におよぶ半導体デバイスのめざましい発展に伴い、それを支えてきた基盤材料であるSi結晶の育成技術も飛躍的な改良が重ねられ、2000年以降には、点欠陥制御によるGrown-in欠陥フリーの300mm結晶の量産化を実現するに至った1)
1989年,長谷部ら。本報告では、このようなGrown-in欠陥フリー結晶の開発の経緯を振り返るとともに、今後の課題についても言及する。
結晶中心部と外周部のGの差を小さくしたホットゾ.ン構造を有するCZ炉を用いて,引き上げ速度(v)の制御によって無欠陥領域の範囲にv/Gを制御することが出来れば,インゴッ卜全長にわたってGrown-in欠陥フリーの結晶が育成できることを見出し,直径150mmの試験炉を用いてこのコンセプトを実証した(図2)3)

パワーデバイス用MCZ-Siウェーハ
中川聰子
応用物理、84-11, 976 (2015).
シリコンパワーデバイス用途の磁場印加チョクラルスキー引き上げシリコン(MCZ-Si)単結晶は,1014 atoms/cm3以下と極
微量に炭素濃度を低減することで,浮遊帯溶融法により育成したシリコン(FZ-Si)単結晶よりも,高ライフタイム化が実現した.
MCZ-Si 単結晶におけるライフタイム低下要因は,酸素析出物である.我々は,酸素析出物の不均一核形成に寄与する炭素を
1014 atoms/cm3レベル以下にすることで酸素析出の不均一核形成を大幅に抑制した.その結果,通常の酸素濃度レベルの
MCZ-Si 単結晶でも,FZ-Si 単結晶を超えるライフタイムを実現した.この技術は,開発したフォトルミネセンス法による低炭素濃
度測定技術に支えられており,これまで見ることができなかった1014 atoms/cm3レベル以下の微量な炭素濃度の制御が鍵を
握っている.
コメント
中身は炭素濃度測定のフォトルミネッセンス法の宣伝、電子線照射条件を欠いており追試不能。パワーーデバイス関連は第三者の報告がなく不詳。
酸素析出の不均一核が炭素であるとの主張は、1014/p3台では根拠に欠ける。赤外吸収法により1014/p3の炭素の測定は広く行われており、フォトルミで必須な低温なら1013/p3台が測定されている。
その後、フォトルミネッセンス法の発表を取りやめた。

Si結晶成長の欠陥制御技術
宝来正隆, 西川英志, 田中忠美, 野町 健, 浅山英一,梅野 繁
結晶成長学会誌, 25-5,207 (1998)
CZ-Si 結晶中の成長時導入欠陥の制御技術について議論した.OSF リング径と成長時導入欠陥
のタイプは成長速度V と結晶軸方向の温度勾配C の比VIC で決定される.結晶の径方向にC 分
布が均一となるようにホットゾーンを設定することで,OSF リングが消滅直後に現れる成長時導
入欠陥フリー領域を150mm 直径の結晶において部分的に実現した.この狭い成長条件を全結晶長
に渡って維持できるv1G 制御技術を確立する必要がある

シリコン結晶中の成長時導入欠陥について(総論)
井上直久
応用物理、66-7, 715 (1997).



CZシリコンウエハー中のリング状分布積層欠陥
長谷部政美*・武岡吉彦*篠山誠二*・内藤俊太**
応用物理、57-10, 1542 (1988).
半導体集積回路の微細化と,それに使用されるシリコンウエハーの大口径化に伴い,結晶中の欠陥および不純物の低減と分布均一化が強く求められている.本稿で紹介する欠陥は,CZシリコン結晶中に熱酸化処理後,ウエハー面内にリング状に分布し,発生する積層欠陥である.われわれは,不均一分布の原因が,結晶育成中に生成される高温で安定な酸素析出物核の分布によるものであること,また,この積層欠陥は,酸化によって導入される自己格子間原子が集合して成長したものであることを明らかにしてきた.本稿では,この積層欠陥の発生,成長機構と酸素の析出挙動についての実験結果を紹介し,リング状分布する積層欠陥の原困について議論する.
コメント
和田、井上らの1979年の「巨大酸化物析出物からの積層欠陥の発生」など3件と同じ。
詳しくは「酸素」のページに」
Growth of Stacking faults by Bardeeen Herring Mechanism
Wada, Takaoka, Inoue, Kohra
Jpn. J. Appl. Phys. 18-8, 1679 (1979).

Inhomogeneous Oxygen Precipitation and Stacking Fault Formation in Czochralski Silicon
N. Inoue, J. Osaka
Jpn. J. Appl. Phys. 17-11, 2051 (1978).

Nucleation Temperature of Large Oxide Precipitates in As-grown Czochralski Silicon Crystal
K. Wada, H. Nakanishi, H. Takaoka and N. Inoue
J. Crystal Growth, 57-3, 535-540 (1982).

1987
シリコン中の酸素,炭素による赤外吸収の最近の話題
渡辺正晴*・鹿島一日児*
応用物理、56-7, 890 (1987).
長い間研究されてきた,シリコン中の酸素と炭素の赤外吸収の,最近の話題を述べる.赤外吸収係数から,酸素あるいは炭素濃度を求める換算係数の見直しが行なわれ,新たな巡回測定の結果,従来のASTM係数とは異なった値となった.S/Nのよい測定により,今まで注目されていなかった酸素(515cm-1, 560cm-1)やCO(684cm-1, 637cm-1, 586cm-1)による吸収が明らかになった.
コメント
英国の赤外研究の第一人者がすでに報告。実際の測定手続きにその後採り入れられた。

1984
磁場中単結晶成長
シリコン星金治・伊澤伸幸・鈴木利彦
応用物理、53-1, 40 (1984).
Si単結晶をチョクラルスキー法(CZ法)で成長する際に磁場を加え,Si融液に起こる熱対流を抑制し,結晶の高品質化を図った.磁場で熱対流が抑制されるには,融液の導電率が十分大きくなければならない.したがって,すべての材料にこの技術が当てはまるわけではない.Si融液は,幸いなことに,水銀並みの高い導電率を有するため,磁場が有効に生かされる.この研究ノートは,実験データの紹介ではなく,開発までの経緯と現状に話の中心を置いてまとめたものである.
コメント
米国でのGaAsの研究を、シリコンに応用して開発。現在の大型CZ結晶の成長は殆ど磁場下で行われている。

1981
引き上げ法シリコン基板中の酸素濃度とMOS素子特性
井上直久*・活田健治**・干川圭吾*
応用物理、59-7, 740 (1981).
1. はじめにMOS LSIの基板に用いられるシリコン結晶は,石英るつぼを用いて引上げ法で育成されるとき)に,シリコン融液中に石英るつぼが溶解するため,高温度(約1018atoms/cm3)の酸素不純物を含んでいる.MOS素子の劣化原因のうち基板品質に関連するものとして,結晶欠陥や素子製造中の不純物汚染)によるキャリアの再結合・発生や,ウエーハの反りによる微細パターンの合わせずれがある.酸素不純物はこれに対し,酸素の析出に起因する欠陥の発生,ウエーハの反りをもたらす転位の酸素による固着作用,汚染の酸素析出によるゲッタリング,などのかたちで関係する.また,酸素ドナーによる比抵抗値のシフト,素子製造プロセスにおいて誘起される欠陥と酸素の関係なども注意すべき間題である(Table 1).MOS RAMおよびMOSイメージセンサ(固体撮像素子)などのLSIの特性との関係についてのわれわれの硬究結果を報告する.以下では,現在最も一般的な,バルクシリコン基板を用いたNMOS素手について述べ,エピタキシャル成長膜を用いた素子や不純物拡散層に素子を形成するCMOS素子には触れない.なお,本論に入る前に,酸素不純物と結晶欠陥との関係および酸素濃度の制御法について述べる.

1980
引上げシリコン結晶の熱誘起微小欠陥に対する炭素の影響
岸野正剛・松下嘉明・金森克・飯塚隆
応用物理、49-1, 90 (1980).
さて,CZ結晶の熱誘起欠陥は基本的には過剰酸素の析出の問題である4,5).熱処理によって発生する微小な転位ループや積層欠陥も酸素の析出物によって誘発される.したがって,酸素の析出物が熱処理によっていかに発生するかを明らかにすれば,問題はほぼ解決すると思われる.シリコン結晶中の酸素の析出は酸素の均一核発生に基つく現象であって,酸素が過飽和に存在する限りその析出は避げられないという説がある8〜10).しかし,いろいろなウエーハを調べてみると,酸素濃度が非常に高く(〜1×1018cm-3)ても,熱処理による酸素の析出が起こりにくい場合もある.このことは,シリコン結晶の検査・研究に携わっておられる方なら,お心当たりがあると思われる.われわれはこの点に着目し,もう一方の残留不純物である炭素の熱誘起欠陥に及ぼす影響を調べた.その結果,後に述べるように,炭素原子が酸素析出物の核になっている可能性が高いこと,および,析出物の元になる潜在欠陥が育成したままの状態で結晶内に存在しているらしいことなどを明らかにした。シリコン結晶の微小欠陥を調べてさまざまな結果が出るのは,"めくら"が象を"見"て,"壁のようだ","柱のようだ","……",というのと似ているように思えてならない.われわれは"めくら"にならないように,できるだけ多数のウエーハ(数百枚以上)を調べるように心掛けたが,われわれもまた,"めくら"の1人である可能性があることを否定するつもりは毛頭ない,まだまだ,シリコンの微小欠陥については不明な点が多い.今後もできるだけ"めくら"にならないように全体を見通しながら研究を進めて,一般性のある結果を出すよう心掛けたいと思う.
コメント
市販のシリコンウエハの熱処理結果の統計的処理。干川らにより1016/p3以下では酸素析出への影響は見られなかった。LSI時代を通じて炭素が問題となることは無かった。
詳しくは「炭素」のページに

Si微小欠陥研究史
河村力
日本結晶成長学会誌, 7-3&4, (1980)
とを実証できたと考えた.
 Si においても無転位化に伴い, それまで転位の蔭にかくれていたかのように,微小欠陥の存在が
大きくクローズァップされることになった. 特にFZ ウエーノ・においては, as  grown の(ll1)
ウエーハをSirtlエッチング16 ) した場合に, 転位ピットに対応しない丸味を帯びた皿状のピット
(Fig .2)が現われることがAbe らte ) (1966) によって発見された.彼らは, これを
“sha }low  etchpit” と呼んだ.後になって, これらはまた“sau .cer  pit” 32 ),“ flat.bottom  pit”
などとも呼ばれるようになった.このようなピットの集合がウエーハ上で渦(swirl )状を呈する(Fig . 3) ことから,
スワール欠陥, スワール・パターン(Fig .3) と呼ぶようになったのはScccodAragonaあたりからであると思われる。
コメント
著者は微小欠陥の研究をしていない

1979
CZシリコン単結晶の微小欠陥
井上直久
日本結晶学会誌21,11(1979)

1974
半導体Si中の軽元素の挙動
八剱吉文
応用物理、43-11, 1136 (1974)
シリコンが半導体素子として工業的に使われだしてから,すでに, 15年以上経過した.しかし,シリコン中の微量の軽元素不純物の挙動が解明されたのは比較的最近のことである.米国電気化学協会, 1969年春の特別学会(Semiconductor Siliconはこ関する)におけるSpenkeの総合講演1)からもその事情がうかがえる.その中でも炭素については数年前まで分析法さえ決っていなかった.その後,軽元素不純物の新しい分析法が発表され,関係する研究者によってその方法が追試され,従来法が再検討された.そして,シリロン中の軽元素の存在量,挙動が明らかになり,最近に到ってデバイス特性に重大な影響を与えることもわかってきた、さいわい,筆者はその渦中にいたので,本解説は筆者らの研究2〜9)を中心にまとめた.


1974
半導体結晶製造装置
西沢潤一
応用物理、43-3, 220 (1974)
コメント
1975年に我が国のシリコン結晶研究が盛んになる前の開発状況