シリコン結晶の研究と開発の歴史
history
2019年9月1日-
目次
シリコン結晶の研究と開発
シリコン結晶中の炭素濃度の赤外吸収による測定法の標準手順
赤外吸収のデータベース
無断転載をお断りします。

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初めに

シリコン結晶は、コンピューターや携帯電話などあらゆる電気製品に使われている、トランジスタからICチップまでの半導体デバイスの材料です。
しばらく前まで、日本は半導体デバイスの最大の生産国でした。その地位は失いましたがシリコン結晶では現在でも最大の生産国です。
日本の物づくりは多くの場合職人や工場現場の人々の注意深さと創意工夫とで成り立っています。
シリコン結晶の場合も基本は同じです。
鉄の場合は大企業が世界の大企業と競い合い、大きな研究所で研究開発が行われ、学会でも公表されますが、シリコン結晶の生産者は小さく、結晶成長中の精密な制御がものをいうため、学会と現場は余りつながっていません。学会や論文では欧米の活動が目立っていますが、現場の技術者にはそれらは伝わっていません。
このホームページではそのような学界などの情報を現場の人に届けて役立ててもらうことを目指します。
ここではこれまでに例のない、シリコン結晶の歴史を述べていきます。

A 概要
1 これまでのシリコンの歴史に関する情報
これまでに「シリコン結晶の歴史」という観点でその始まりから現在までを論じたものはありません。大抵は以前に書かれた「古代史」か、筆者が活動した時代に限った当時の「現代史」で客観的とは言えません。
一方で年表として主なトピックを挙げたものは幾つかあります。例えば「古代」については元学習院大学教授の小川智哉氏が「応用物理」に書いた物です。

2 シリコンデバイスと結晶の歴史は4段階
これまでの歴史を客観的に振り返り何が重要だったかを判断し、教訓と将来の見通しを述べることはどんな分野にも必要なことです。また新しく参加する人や第三者にとって信頼できる情報になります。
ここでは、主なトピックを年表形式で示していきます
1940年代の後半にトランジスタが発明されて、真空管の置き換えが始まりました。最初はゲルマニウムが使われていましたが、60年前後からシリコンへの置き換えが進みました。
それから現在までの歴史を、4期に分けることにしました。
それは、シリコンデバイスの発展の4段階と、それに応じた品質を目指すシリコン結晶の4段階です。
(1) Tr,IC, 転位とスワール欠陥の時代

年表 トランジスタの草創期のベル研の開発
1932 真空管に代わる固体スイッチの開発開始
1947 点接触型トランジスター現象の発見
1949 接合型トランジスタのサンプル
1954 バンドギャップの大きいシリコンへの移行始まる、拡散型トランジスタ
1955 シリコン酸化膜の発見と拡散マスクへの応用
1956 ベル研究所のトランジスターのライセンシーのシンポジウム

年表 ソニーのシリコントランジスターの開発
1955 トランジスタラジオを日本で最初に発売、トランジスタテレビの開発計画
1956/01 ベル研のシンポジウムに参加
1956 シリコン単結晶の引き上げ装置完成
1960 トランジスタテレビの発売、パワートランジスタの量産移行


シリコントランジスタの開発とソニー、川名喜之、半導体産業人協会 会報 No.86('14 年 10 月) pp. 25-32.など

(2) LSI,酸化誘起積層欠陥の時代
(3) system on chip、空洞欠陥の時代
(4) パワーデバイスと炭素酸素ペアの時代
1期(50-, 60−)
第2期(75−)
第3期(95−)
第3.5期(00−)
第4期(05−)
デバイス
単体Tr, IC
LSI
system on chip
IT
パワー
欠陥
スワール
酸化誘起積層欠陥
空洞
ボロンコフモデル修正
炭素点欠陥複合体
不純物
酸素
酸素
窒素・点欠陥
酸素点欠陥、応力
炭素
特性
ライフタイム
酸化膜ブレークダウン
←ゲッタリング→
ライフタイム

3 シリコンデバイスと基板結晶の品質

B 各時代
1 トランジスタ,ICと転位とスワールの時代

付録
多結晶シリコン製造のモノシラン法の歴史
近年はシリコン結晶と言えば一般に単結晶を指し、多結晶シリコン原料は、単結晶と製造会社が異なるなど、交流が少ない。しかし初期には同じ会社内で開発と生産が行われていた。
また近年のパワーデバイス用結晶にあっては、ポリシリコンの不純物濃度や純度が注目されるなど再び関係が深まっている。
年表
1957 モノシランからの多結晶シリコン製造の研究開始 石塚研究所
1958 同上、都立大学 千谷利三研究室
1960 小松電子金属設立
1967 「新モノシラン熱分解法」
1982 ユニオンカーバイド社に技術供与
1990 コマツ電子金属、米国のユニオンカーバイド社シリコン製造工場を買収、ASiMI (Advanced Silicon Material)社設立、
後ノルウエーのREC社に売却
  シリコン事始め、八釼吉文、秋山信之、半導体シニア協会ニューズレターNo.51('07年7月)pp. 10-12などから作成

2 LSIと酸化誘起積層欠陥の時代

3 system on chipと空洞欠陥の時代

3.5

4 パワーデバイスと炭素酸素ペアの時代

C 欠陥制御から見た歴史
デバイスに要求される品質の実現とは、見方を変えれば、品質を最も損なっている結晶欠陥を明らかにして、それを防ぐことと言える。
それをここでは欠陥制御と呼ぶ。シリコン結晶の開発史は、欠陥制御の歴史とも言える。
その最も代表的で大きな成功例は「LSI時代におけるシリコン酸化物析出物の制御」である。

1 トランジスタ,ICと転位とスワールの時代

2 LSIと酸化誘起積層欠陥の時代-Precipitate Engineering
1975年からLSI、具体的にはDRAMの研究開発が本格化した。そのころはas-grown結晶のウエハを化学エッチングすると渦状に欠陥分布が現れるスワール欠陥が残っていたが、徐々に目立たなくなり、
DRAMの歩留まりは酸化膜形成プロセスで発生するプロセス欠陥である酸化誘起積層欠陥(Oxidation induc stacking fault, OSF)により低くなっていた。また見かけの原因として積層欠陥密度が酸素濃度と共に高くなることが報告された(’76 Pearce)。
スワールウエハを電子顕微鏡観察すると、完全転位ループ、積層欠陥(不完全転位ループ)、prismatic punch out loop等がgrown-inのシリコン酸化物析出物の周りにできていた。そこで酸化物析出物の抑止が最も重要な課題となった。
その為に析出物の同定から熱処理挙動の理解と形成機構の解明を踏まえて析出物を抑制するという一連の研究が行われた。これはその後の欠陥制御に先行するもので、現在からみるとDefect EngineeingのPrecipitate Engineeringであった。

D 評価技術から見た歴史


井上直久 応用物理 2001